長らく読んでみたいと思っていたナオコーラさんのデビュー作が、文庫になってたので買いました。奥付をみると、文庫になったの結構まえみたいだけど、たまたま面展されてたので気付いた。
- 作者: 山崎ナオコーラ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/10/05
- メディア: 文庫
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物語の中心にあるのは、美術専門学校に通う十九歳の主人公と、専門学校の講師である三九歳のユリとの恋愛、だ。この年齢のバランスは、奇抜であるように見せかけつつ、実は主人公を受け身の側に置く仕掛けでもあるのだろう。そのことで、主人公の視線を、自然に受け入れられる。つまり、この小説で、作者は自分の知らない性を描こうとはしていないのだと思う。
このことを、高橋源一郎さんはあとがきで
「男性中心社会」への反撃としての「女性言葉」の奪還が、その本質において攻撃的であるとするなら、女性化しつつある男性を肯定するこの小説は、その本質において攻撃性を持たない。それが、攻撃的な(いや権力的な)「男性文学」に抗する真の「女性文学」であるなら、この小説以前には、「誰もトライしていなかった」のである。/p155
と絶賛している。個人的には、山崎ナオコーラさんの特別については全面的に賛成だけれど、「攻撃的/権力的」な言葉に抗する女性の視点、という意味では、小説よりも漫画という表現でのほうが、ずっと先を行っているのかもしれない。まあそれは余談だ。とにかく、とても面白い小説です。
それと、昨日「真鶴」を読みおえたばかりだからか、主人公がユリに夢中になる心持ちを、どこかあの物語と重ねて読んでいた。例えば
しかし恋してみると、形に好みなどないことがわかる。好きになると、その形に心が食い込む。そういうことだ。オレのファンタジーにぴったりな形がある訳ではない。そこにある形に、オレの心が食い込むのだ。/p60
こういうところは、「真鶴」での、「まじりあってとけあって」いたいという心持ちとぴったり重なるのではないか。
そして結末まで読んで、あらためて二つの物語の近さを感じるとともに、この言葉はすんなりと、受け入れられると思った。たまたま手に取ったに2作品連続で、ほとんど同じ言葉を提示して終わったっていうのは、不思議だった。
「虫歯と優しさ」
同時収録の短編。この小説もとてもすきです。こちらは、女性である男性が恋人の男性とわかれそうである、という状況を描いたもの。歯医者で診察を受ける描写と、恋人とのやりとりを重ねるやりかたがとても気が利いているし、この物語も、結末がとてもよかった。あの場面が私は大好きだ。でも、私はどちら側に感情移入しているのだろう、と考える。どちらにでもなる。たぶん。