- 作者: 古川日出男
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/07
- メディア: 文庫
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古川日出男さんの小説はすきで、たぶん『ゴッドスター』くらいまでは新刊を追うようにして読んでいた。けれどだんだんとスピードアップする文体の、強調されるリズムに、ちょっと疲れてきてもいて、だから読もう読もうと思いつつその分厚さに後回しにし続けていたこの本は、本当に新鮮に、“古川日出男の” 小説としてではなく、アラビアの夜の種族として読むことができたように思う。それが作者にとって好ましいことかどうかはわからないけれど。それでも、この作品で語られる
「一冊の書物にとって、読者とはつねに唯一の人間を指す」
という言葉と読書は、近いところにあったはずだ。
それと同時に、やはり古川日出男さんは一貫して場と歴史を描いている人だと再確認したようにも思う。使っているレンズが、それぞれ異なっているので、視界のとりかたや奥行きはそれぞれ違うけれど、それはまた語られる物語にあわせてのことなのだろう。
この物語でもっとも古川日出男節を感じたのは、物語の中の物語での会話文。とくにジンニーアの俗っぽさとサフィアーンの快活さはほんとうに可笑しくて魅力的だった。
それから古川日出男さんは、この「アラビアの夜の種族」で、日本推理作家協会賞と日本SF大賞を受賞したそうだ。このことも、読み終えてみるととても面白い。音楽にとってのジャンルが非常に曖昧であるように、小説もまた、ジャンルは後からあるものなんだなあということを、改めて思う。
そして、この本は、まさにそのことを体現するような物語だった。どこを読むかは読者次第。クローズアップするのも、編纂するのも(三冊に別れた文庫版では、どこからよんでもいい、とあとがきに書いてあったりもする)、拡散させるのも読者であると結ばれる。読む人ごとに、色合いをかえる物語だなんてほんとうにわくわくする。
とても楽しい読書でした。
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