ベルカ、吠えないのか?/古川日出男

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

すごい、なんて陳腐な言葉しか浮かばないけれど、すごい物語だ、と思った。太平洋戦争時からソ連崩壊に至るまでの人間の、戦争の歴史と表裏一体となった、イヌの歴史についてがこの本には書かれている。だからこれは、一九五七年の、十一月、イヌ紀元ゼロ年を中心として描かれる歴史だ。
全てが駆け足のように思える。そしてそれは実際、哮り、駆けるイヌと、イヌと交わった人間の物語だ。
たくさんのイヌがいて、それぞれの生や本能があって、そこから遠いところで動いていく世界があって、その個と世界の遠さはまるであの一九五七年に見上げる空と地上ほどもあるように思える。
いろいろ狂う。狂っているように見える出来事もある。でも、歴史なんてのは実は角度をかえれば、いくらだって変化して見える。

これはフィクションだってあなたたちは言うだろう。
おれもそれは認めるだろう。でも、あなたたち、
この世にフィクション以外のなにがあると思ってるんだ?
(まえがきより)

とにかく、物語って、すごいなあ、と私はバカみたいに感心してこの本を読み終えたんだけど、例え全てがフィクションでも、それを読んで感じることってのは、真実なんじゃないかと思ったりする。
万人にお勧めできる本ではないと思うけど(意味わからん、という人もいるだろうとは思う)私は、イヌに夢中だった。例えばアイス。それからあの怪犬仮面がグッドナイトとの邂逅に啓示を感じる場面。私はすっかりしびれてしまって、夢にまでイヌが出てくるような勢いです。うぉん!
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「ロックンロール七部作」の感想 → id:ichinics:20060127:p1