離婚/色川武大

ISBN:4167296012
色川武大さんの昭和53年直木賞受賞作。
表題作とその連作である「四人」「妻の嫁入り」、そしてその3作品の元となったと思われる自伝的な内容の短編「少女たち」が収められた本です。
色川さんの作品の中でも、とりわけ私小説的な色合いの濃い作品ではないかと思うのですが、にも関わらず、とても客観的な視点をもって描かれているところが色川武大という作家さんの特別なところだと思います。
「離婚」「四人」「妻の嫁入り」の3作品はライターとして働く主人公羽鳥と、その妻すみ子が出会い、結婚し、離婚し、愛人関係となる不思議な関係性を描いた物語。いつまでもぐずぐずとまとわりつき、束縛されそうになれば離れて、しかし羽鳥に依存することをやめられないすみ子とそれを拒むことはしない羽鳥。そのやりとりは読んでいて苛々することもあるのだけど、なぜかしっくりくるのです。
全体的に、乾いた風合いで統一され、現代風俗を描いた小説のようなのですが、主人公である羽鳥すらも、その状況を外側から語り、決して作者の生々しい思い入れのようなものが滲まないことが、私小説からも風俗小説からも一線を画すものになっている気がします。それでいて、読んでいくうちに、羽鳥という人物について良く解ったような気持ちになれるし、すみ子という人物の描写も、決して説明的ではないのに、的確に伝わってくる。実際には知りもしないのに、「こういう人いるよなぁ」と思い、さらに「なんとなく憎めない」と感じてしまうところが絶妙。とても面白い小説でした。

近年の作家さんで言うと、吉田修一さんの描き方に近いものを感じます。その理由については、もうちょっと考えてみたい。あと、羽鳥の仕事の仕方には村上春樹さんの使った「雪かき」という言葉を思いだしました。

男をひっかけるつもりなら、釣りと同じなんだ、とぼくはいいました。魚が餌にしっかり喰いついてから、竿をあげるんだ。男というものは女とちがって、本能的に、一人の女に縛られちまうのを望んでいないのだから、釣られるとわかれば逃げちまうよ。p161

というところを読んで、昨日の「中退アフロ田中」を思いだした。ということは、この感じって、現代でも「定説」として通用するんだろうか。どうでしょうか。