SWEET SIXTEEN

監督:ケン・ローチ
ケン・ローチ監督の映画は『マイ・ネーム・イズ・ジョー』くらいまでしか見ていない。個人的には最初に見た『リフ・ラフ』の印象が強烈で、思えばあれが私にとってリアルな(というかドキュメンタリー出身の監督の)映画を好むようになった切欠だった気もする。でも当時の私にはかなりキツかった。
この「SEWWT SIXTEEN」も劇場にかかっているときに見ようと思っていたんだけど、どうも気分がのらなくて、それはたぶん、簡単に救いのようなものを見せてくれる監督ではないんだよなぁ、と思っていたからなんですが、でもなんか見てみたら、すごく良い映画でした。

SWEET SIXTEEN [DVD]

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主人公の少年リアムは15歳。母親は恋人である麻薬密売人の身代わりとなって服役中だ。物語は母親との面会へ向かうシーンからはじまる。相変わらず母親を利用しようとしている男にしびれを切らしたリアムは家を出て姉の家に避難する。そしていつか、母親と姉とその子供と「家族」の家を持ちたいと願うのだけれど、そんなリアムにとって選ぶことのできる路は限られている。
母親に麻薬密売の片棒を担がせることを拒んでいたリアムだが、その母親と暮らす家を買うという名目のために、いとも簡単に麻薬の密売をはじめる。彼には罪悪感のようなものが殆ど感じられない。すごく賢く優しい少年であると同時に、望遠鏡を覗かせて子供たちから金をとる冒頭のシーンで彼の倫理観が歪んでいることが伺える。そして、踏み越えてしまった一線はいとも簡単にリアムを引きずり込んでゆく。
縄張りを荒したことでヤクザに目をつけられるのだけど、結局ボスに認められることになるシーンでは複雑な心境にさせられた。確かに、生活は前よりずっと良くなったようにも思える。しかしリアム自身は何も見えていない。酒場で酒を飲むシーンで、幼い表情を見せる彼を見て、彼が立ち止まってくれればいいのにと思った。しかし周囲の状況は彼にそれを許さない。そして、リアムがほんとうに望んでいたものは、結局その手をすり抜けていってしまう。
ラストには期待通り(?)重い気分になったけど、あの姉の電話が希望に思える。保護者になる気はない、と言われて、リアムはカルムをうらやんだのだろうか。
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テーマは『イゴールの約束』にとても近い。イゴールもリアムも、行き止まりにいるという意味では似ているのだけど、その一歩を踏み出すには、やはり「気付く」ことが必要なのだと思った。せめてあの「子供が居る人に麻薬を売るなんて」という台詞がリアムに向けられたものだったなら、なんて考えたけど、そうしたら物語の結末が変化したかどうかはわからない。