私の中のあなた

監督:ニック・カサヴェテス
とてもよかったです。
苦手な種類の話だろうな、という先入観があったので、たぶん他の人の感想を読まなければ見ることはなかった気がします。けれど、映画がはじまってすぐに、見に来てよかったなと思った。画面の端々まで丁寧につくられた、とてもすばらしい映画でした。

主人公は、白血病の姉に臓器を提供するためのドナーとして生まれた、アナという11歳の女の子。彼女が、臓器提供を拒むために弁護士をやとうところから物語がはじまります。
元弁護士の母親は「姉を救いたくないのか」「法律では親に決定権がある」と言って彼女を責める。2人のやりとりは見ていてほんとうに切なかった。母親もぎりぎりのところにいるのだけど、アナと姉との優先順位をはっきりと示してしまうことの残酷さに気づいていない。
ただ、こう書くと、まるで崩壊した家族の物語のようだけど、そうではないところが、この映画を特別なものにしていたと思う。
誰もが、家族皆で少しでも良い方向へ向かいたいと思っていて、裁判が続いている最中でも、そこにはっきりとした信頼関係があるのがわかる。私なんか見ていてつい母親を責めたくなってしまうのだけど、いつもはおどけている主人公の叔母がめずらしく真面目な顔して、彼女を諭す場面などにははっとさせられた。
過去のエピソードの挟み方もとてもうまくて、長女の回想、アナの回想、それぞれを重ねていくことで、「今」の奥行きが増していく。
その先にあって、ただの「いい話」で終わらない結末もよかった。特に、ピザのシーンの、ピザにたどりつくまでのやりとりを、あそこにもってくるのがすごい。無神経さと思いやりは紙一重だけど、表面の問題ではないのだなと思う。

映画を見終わった後、印象に残る場面を思い返していて、改めてその理由に気づかされる。
他人もまた自分と同じように「自分」を持ち、思いがあるのだということ、それを描けるのが物語である、というどこかで読んだ言葉を思い出しました。

俳優も皆よかったなあ。主役は次女ではあるものの、家族全員の視線をきちんと描いた脚本だったと思います。映像は冒頭からぐっときた。
難をいうならポスターが、映画の内容にあってないと思う。キャメロン・ディアスを推したいのは分かるけども、それにしてもな。邦題は、気持ちはわかる。