村上かつら短編集2

村上かつら短編集 2 (ビッグコミックス)

村上かつら短編集 2 (ビッグコミックス)

この本には「いごこちのいい場所」という中編連載作品と、2つの短編が収録されている。
「いごこちのいい場所」はスピリッツに連載されていた当時に読んでいて、おしいれの中から隣の家をのぞく、という情景が印象に残っていたんだけど、今読み終えると、その設定よりも、キャラクター造形の興味深さがこの人の独特なのだなと思う。

キレイなことを鼻にかけてないんじゃなくて、
自分がキレイだってことに気づいてないんだ
いつだってキョトンとした表情(カオ)…
女としてのたくらみのなさ…
それが、
俺みたいなしもじもの者にまで うっかり恋心をいだかせるんだ。
「いごこちのいい場所」第五話

なぜ堀川さんがそうであるかについては、後に解説されることになるんですが、それにしても、この設定は完璧だなと思う。
たくらみはないはずなのに、彼女に恋心を寄せる主人公は「もてあそばれて」いるように見える。相手は自分をデートに誘おうとしていた(そして失敗した)男なのに、「よかったら私とデートしてください」なんつって、トラウマを打ち明け、恋愛の相談をする。これが無自覚(たくらみでない)というところこそが、この話の生々しいところだ。主人公の「自信もってよ」という励ましも、その設定があるからこそ、受け入れられ、結果的に自らの手で失恋することになる。
でも不思議と残酷な話には思えない。それはきっとこれが、彼女が無垢であるという保証に基づいた、理想的な失恋だからなんじゃないかと思ったりした。