蝉時雨のやむ頃/吉田秋生

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

表紙を見て「ラヴァーズ・キス」みたいな感じなのかもしれないと思って買ったのだけど、まさに期待どおりの作品でした。鎌倉に暮らすある4人姉妹を主人公に描かれる群像もの。
鎌倉を舞台にしているからか、保坂和志さんの小説を思わせるような雰囲気もある。とくに、父親の葬式での異母姉妹の邂逅を描いた第一話の感情の動き方にはぐっときてしまったし、続く第二話で複数の人物の行動を俯瞰した映画のような流れも面白いなと思った。それぞれの視点を一人称で渡り歩きながら、人々が集合した場所では三人称になる、その移り変わりがとても自然。家がその中心にあるような描き方なんて、保坂和志さんの「カンバセイション・ピース」のようだと思う。
ただ、主人公たちの心情に入り込みづらいところもあって、それはキャラクターたちがどこか、類型的に感じられるからなのかもしれない、と思う。とはいえ、類型的なキャラクターを描いた作品だと心情を捉えにくい、というわけではないのだけど、たとえば1話ごとに視点が固定されていた「ラヴァーズ・キス」にはあったそれぞれの切実さの「熱」みたいなものが、移り変わる視点のせいで分断されてしまうのが歯がゆい。そして、しっかりものの姉、軽そうだけど実はしっかり者の恋する乙女次女。そして明るいムードメーカーの三女、という構成も、まだその形だけをなぞったもののように感じられる。長女と四女のキャラクターは吉田秋生さんの作品に必ず出てくるタイプというか、たぶん得意とするキャラクターなのだろうし、奥行きもあるのだけど、読んでいるとどうも次女と三女の印象が定まらない。ちょっとタッチが軽すぎるような印象だった。
この作品は「海町Diary1」となっているので、今後も続くシリーズなのだろうけど、主人公が同じなのかはわからない。この姉妹のシリーズとしてもっと読みたいな、と思う。