「Atlas」

ゆっくりとまわる銀色の球体が室内で唯一の光源だった。その表面はちいさな六角形に覆われていて、そのひとつひとつの六角から小さくて黄色い、ところどころに水色の縁取りがある衣服をまとった生き物が踊りながら出てくるのを私はぼんやりと眺めていた。右足を踏み出し、左足でリズムをとると同時に両手を広げる。単調だが複雑なステップを繰り返す生き物たちは留まらず淀まずひたすらに行進を続け、いつしか床いっぱいにとぐろを巻いていた。彼らはステップをふむたびに「おーえーおぅ」というかけ声を発するのだけど、その小さな体のどこから音を出しているのか、彼らの黄色が眩しくて見る事は出来なかった。もっと近付いて彼らを見ようとしたが、腰掛けていたスツールからおりた瞬間、かけ声は止み光も消えてしまった。光が消えれば黄色も見えない。暗闇にのまれたわたしは、きっと誰かがツマミをひねったのだと思う。だがツマミとは誰か、誰かとは何か、それもすでに消えていた。行進の足音だけがザッザッとあたりをおおい、足はひとりでにステップを踏み、腹の底を揺らし、音に引っ張られるように腕が開いた。頭上で鈍い黒色が回転する。ひたすらに前進を続けた先には、六角形のドアが開いていた。視界にあふれるまぶしい銀色はゆっくりとまわる。
目を開くと地下鉄の車内で、私は銀色の手すりにしがみついていた。