満員電車

私が通勤に使っている路線は都内でも屈指の混雑状況で知られていて、特に平日朝7時から8時にかけての殺伐は、まさしく冷凍都市のそれであり、つり革にぶら下がって眠る長身のサラリーマンと、その肘をこづくサラリーマンと、おりる人と乗る人の流れが渦を巻き人のいらいらを増幅させ、声をあげて喧嘩する人とそれを見つめる無表情な人々とはちきれそうなドアに寄りかかって携帯を眺める大学生と、そのすべてが一触即発のあやうさで運ばれてゆく、奇跡的なまでの不協和音。かつて同級生だったT君が卒業間際のある日「俺は満員電車に乗らない人生を選ぶ」と言った、その台詞を当時の私はは何を大げさなと思っていたのにもかかわらず、毎朝最初の電車から次の地下鉄に乗り換える間、ほぼ毎日その台詞を思い出していることに気付いているし、世の中にはきっとたくさんのT君がいてそれを思い出しているのも私だけじゃないはずだ。
でも時折、誰かと誰かが挨拶したり、笑ったり、ぶつかった人どうしが会釈をしていたりキオスクのおばちゃんとかわすお金の受け渡しだったり、そういったやりとりに出くわすだけで、半径2メートルくらいの範囲ではあるけれどもほっとした空気が流れるのも本当で、何がいいたいのかよく分からなくなったけど、つまりできるだけほっとしたいよねということです。声出していこう。ちょっとだけ。そっと。できるだけ。