『Self-Reference ENGINE』/円城塔

おもしろかった。正直なところ、自分がこの本をきちんと理解し、感想を書くのにじゅうぶんな言葉を持ち合わせていないことに歯ぎしりしたい気分なんだけど、楽しんだことだけは確か。

Self‐Reference ENGINE (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

Self‐Reference ENGINE (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

SF*1を読むことと、哲学の本を読むことに、私はほとんど同じ魅力を感じている。けして見ることのできない、人の思考のようなものに、一冊分ついて歩くことで、なにか同じ視線を共有できたような、そこで私の抱く感想が、本を書いた誰かと重なったような、もしくはまったく重ならないけれど触れることはできたような、そんな感覚が楽しい。
しかし、この本を読んでいるあいだは、途中なんども、今自分は何を読んでいるんだろうって、化かされているような気分になった。
イメージを惜し気もなくくり出す、という意味ではイーガンの短編に近いところがあるかもしれない。ただそのモチーフの登場の仕方に規則性や整合性を見ようとすると道に迷う。そのたびに寄り道してしまって、ああもうここに腰を落ち着けるのもいいかしら、と思ったそばから別の世界に、別の語り口にジャンプする。
でもそのよくわからない道筋が楽しくって、読み終えてみるとそれはあきらかにひとつの、本としてここにあるわけだ。

わたしたちは、無限個の点が犇めきあうこの区間から拡散しようとするでしょう。他の点がいない方向へ向かうでしょう。どこへ行っても他の点がいるようなら、誰も切り開いたことのない、別の区間を開こうとするでしょう。「Infinity」p256

それを開くのは、例えば「無限個の点が犇めきあう」様を、覗き込むようなこと。

ちなみに私が気に入った世界は「Ground256」「Event」「Japanese」「Sacra」「Echo」、そして全ての僕とリタとジェイムスの物語だった。

*1:の中でも私の好みは偏っていると思うけど