回るリンゴ

いつもより、すこしはやく目が覚めたので、すこしはやく、家を出る。朝7時台の空は、朝焼けの余韻が少しだけのこる白っぽい青なのだけど、足元にのびる影は濃い。濃くて、輪郭もくっきりとしている。なぁ、なんて思っていたら、ものすごい音をたてて、目の前の車が滑ったので驚いた。前輪を軸に、後輪が45度くらい回って、とまる。道はすいていたので事故にはならなかったみたいだけど、そのときバス停に立っていた私の隣で、誰かが「あぶないなぁ」と言い、私もそれに頷きつつ、バスでも電車の中でも会社についてからも、あの車のことを、考えている。むかし見たディズニー映画かなにかに、リンゴの皮がシュルシュルと向けて芯だけになっちゃった!みたいな場面を見たような気がするんだけども、あんなふうに急ブレーキでとまったら、タイヤが擦り剥けてホイールだけになっちゃったりしないのかなと思う。心配になったので、あの、油圧式のあれかましてやりたいと思うけれど名前がなかなか浮かばなくって、とにかくあれで車の底持ち上げてれば摩擦がおこらないから大丈夫ってことにしたのだけど、進まない回転を眺めていたらなんだか切なくなってしまって、ああそうだあれの名前はジャッキだったって思いながら、取り外すとまた回転してタイヤが擦り剥けてしまった。
芯だけになったリンゴは、確か逆に回転させることでもとに戻ったような気がするんだけど(つまりあれはビジュアルと時間を同時に表しているということなんだな)、その逆回転ていうのがうまくイメージできなくって、なんどかためして諦めて、車は修理してタイヤも元通りになったところまで頭とばして、安らかなきもちになればいいけど、それは今朝のあのスリップを見る前なのか後なのか、見分けがつかないから安らかにもなれないのだった。というか寝ぼけているのだった。