豚茶漬け

豚茶漬けを食べると、T兄のことを思い出す。T兄は母方の従兄弟で、私にとっては実の兄のような存在だ。
T兄が私の家に下宿していた受験生の頃、私はまだ中学にあがったばかりだった。
T兄が暮らしていた部屋には、大量のカセットテープと、古めかしい石油ストーブがおかれていた。T兄はアジア音楽のメールマガジン(郵便)のようなものを発行していて、大量のカセットテープの背面には、難しい漢字や、ハングルや、見たことのない文字が並んでいた。中には彼が作曲したテープもいくつかあって、それは祖母いわく「なにやらわからん」音楽だった。私も聞かせてもらったことがあるけれど、ほとんどがオルガンの単音がいつまでも続くような、すこし不安になる音楽で、いつも穏やかな従兄弟がこれを弾いたというのは、なんだか意外にも感じられた。T兄はいつも、ウナギ犬の描かれたバックを持って予備校に通っていた。
そんな従兄弟の部屋のストーブの上には、いつも薬缶が乗っていた。ほとんど夜食のカップラーメン専用の薬缶で、私も時折そのご相伴にあずかった。
当時、カップラーメンはほとんど食べさせてもらえなかった私は、今でもカップラーメンを食べるとき、ちょっと後ろめたいような気分で、T兄のことを思い出す。

そんな T兄が大学に合格して越して行った後、うちに訪れるたびにリクエストするメニューが「豚茶漬け」だった。
「ほかにもいろいろできるよ」と母さんがいっても、豚茶漬けがいいんですよ、と笑う兄の顔は、私とは全く似ていないのだけど、いつのまにかT兄の来訪と豚茶漬けはセットになって、兄が来ない時でも豚茶漬けといえばT兄の、あの笑うと細くなる目とふくよかな腹を、思い出すのだった。

豚茶漬けは我が家でも人気メニューだったため、いつも満腹になるまで食べるのは難しかった。なので、いつか豚茶漬けをひとりじめしてみたい、というぼんやりとした目標が私にはあって、先日、西友にて豚肩ブロックが安売りしているのを見つけ、作ってみることにしたのでした。

作り方

豚肩ブロック…500gくらいの、なるべく脂身の少ないもの
ネギ(青い部分)…1本分
漬け物各種
キュウリ…1本
塩、しょうゆ…適量
酒…半カップ

1:豚肩ブロックが浸かるくらいまで水+酒半カップを入れネギの青いとこも入れ、圧力鍋でゆでる。圧力鍋がなかったら炊飯器で。今回は炊飯器使いました。

2:脂身をとりながら、ゆであがった豚をさく。
3:スープはネギをのけて少し煮詰めながら、塩で薄めに味付けする。
4:さいた豚はフライパンで空炒りし、しょうゆで味付け。

5:キュウリをスライサーで輪切りにする。
6:4の豚と5のキュウリ、漬け物各種をご飯に盛り、3のスープをかけて食べる。

完成!今回は漬け物がしば漬けだけですが、つぼ漬けとかもよくいれます。

豚をさくのがちょっと面倒だけど、あとはいたって簡単で、とてもおいしいです。
今回は300gくらいのブロックで作ったのですが、、それだと肉が全然足りなくて、2食分しかありませんでした。できれば多めに作って、夕食、朝食、昼食くらいは食べ続けたかった…。いつも家族6人+T兄が食べる7人分作ってた母さんはいったいどんくらいのブロック使ってたんだろうなー。
今、T兄は長いこと海外を転々としていてなかなか会えないのですが、次に帰ってきたときは一緒に、大量の豚茶漬けをすすりたいと思います。夜中に、少し、後ろめたいような気分で。