雨、椿

午後、電車に乗って海のそばまで行った。海岸方面、と書かれた看板の矢印とは逆の出口に出ると、そこは意外なほどビルの多い町で、背後に海岸があるなんて信じられないような気がした。海の匂いも、特にしない。「あの」と声をかけられ振り向くと、上品なおばあさんが「着付けどうですか」とパンフレットを差し出していた。
打ち合わせに通された部屋は突き当りが大きな窓になっていて、ブラインドも全開だった。ちょうど視線の位置に太陽を包んだ雲があるせいで、打ち合わせの相手には後光がさしているように見えた。すごくまぶしくて、ずっと瞬きをしていたような気がする。瞬きをたくさんすると眠くなる。
建物を出ようとしたところで、ぼたぼたと雨が降ってきたけれど、空は晴れているし、大粒すぎるせいかひとつも身体に当たらないような気がした。両脇を私服姿の男の子たちがかけていって、ああ今は春休みなんだなということを思う。
バス停まで歩いているうちに雨はやみ、ぬれた夕焼け色の道をすべるようにバスがやってきた。帰りの電車ではずっと眠っていた。

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退屈は思春期の特権だ、なんて言葉がどこかにあったかどうか定かではないけれど、そういえば学生でなくなってからはあまり「退屈」ってしなくなったような気がする。いつの間にか、暇は待ち遠しいもので、すごく贅沢なことだと、思うようになっていた。
もっと漠然とした、自分の力の及ばなさみたいなものに退屈することはあっても、それをまっすぐに見ていたら底が抜けてしまうし、とか弱気になってしまうのは、もしかしたら、不安を抱えるのにも体力が必要だからなのかなあということを思う。
それが不安でなく、期待だと思えるように、できないこと考えてへこむより、できることを考えてたい。