夜道


ずっと前、あなたのいいところはいつも機嫌が平らなところ、というようなことを言われたことがあった。正確には少し違うけれど、まあニュアンスとしてはそんな感じのこと。
人から面と向かって褒められるなんてあまりないことだし、だから私はその言葉をずいぶん大切にしていたのだけど、実際は全然そんなことないし、へこんでいる日だってわりとあって残念だ。
でもなるべく、そういった言葉を口にしたくない気分はあって、でもいくら心がけていたって1回言っちゃえばもうおしまい。

なーんて気分のとき、たぶん人は走りたくなるものだと思うのですが、こないだ駐輪場の閉まる時間に間に合わず、夜中に家まで歩かなきゃいけないということがあって、なんか暗いし暇だし、そういうとき妹はよく家に電話かけてきてたなー、とか思い出してたらなんとなく悲しい気持ちになって、ちょっと走ってみたりした。
でもほんと暗い道でね…。街灯もまばらだし、自転車はちゃんとライトつけてないと歩いてる人が目の前に来るまで見えなくてあぶないような暗がりで、こう、足音が響いて、自分の足音なのに、自分の足音じゃないよーな感じがして、なんか…ちょっとまてよ、と思ってイヤホン外すために立ち止まったら、
背後からきたチャリンコが背中(というか太ももあたり)にドーンと追突してこけた。

膝をついたまま顔をあげると、遠ざかっていく自転車の反射板がキラッと光って消えた。
喜怒哀楽の喜以外がないまぜになったような気分で立ち上がり、再びイヤホンを耳に入れると流れていたのはマカロニ。「これくらーいのかーんじで、たぶんちょうどいいよね」って全然良くないわ! とか思いながら結局とぼとぼと歩いて帰って不貞寝した。