11歳の冬

「今日は冬物のコートでお出かけください」と天気予報のお姉さんが言うので、素直に冬物のコートで出たら、ちょうどいいどころかそれでも寒かった。手袋もしてくればよかった、と思いながら指を丸めてハンドルを支える。息が白い。道は少し湿っていて、車が通るとサーッという音がする。
冬の匂いは1年ぶりだから懐かしい。冬は苦手だけど、寒いのは清潔な感じがするからいい。

「寒いね」と言いながら、彼女がセーターの袖に手をしまいこむのを見て、私も両手をポケットに突っ込んだ。湿った枯葉を踏みながら、夜の黒にうかぶ白い息を追いかけるようにして歩く。
私たちは、特にどこへ向かうわけでもなく、歩きたくて外にいたのだった。
彼女が「クリスマスは何が欲しいの」と訊くと、私は「別に」と答えて早足になった「なにもいらない」。「でもケーキはいるでしょ」と覗き込む顔から目を逸らし「チーズケーキが好き、生クリームとか好きじゃない」と答える私のなんとかわいげのないことか。
それでも彼女は、気分を害した様子もなく「じゃあチーズケーキ焼いてあげよう」と笑うので、私はとても居心地が悪かった。でも同時に、彼女のようにになりたいとも思っていることに気づいて、顔をしかめた。

冬になるとよく、彼女のことを思い出す。
コートのポケットに手をつっこんで歩きながら、ほんとはあの時、手を繋いでみたかったのかもなと思い、少し可笑しく思う。あの冬は11歳だった。