わたしを離さないで

監督:マーク・ロマネク
好きというのに加えて、個人的に大切に思う作品というのがあるけれど、この映画の原作小説も個人的にはそういった、特別な物語のひとつです。この映画も、海外版のトレイラーを見たときからずっと楽しみにしていました。

映画を見る前、ロビーで原作者のインタビュー記事をちらっと読んで、そこには「原作とは異なるものを撮ってほしい」というようなことが書いてあったのだけど、私がこの映画を見てまず思ったのは、小説を読みながら抱いていたイメージに、焦点をあわせるような映画だった、ということでした。だから、原作を読んでいない人がこの映画をみてどう思うのかはよくわからないのだけど、特にヘイルシャム時代の学校の様子、子ども時代と大人時代それぞれのキャスティング、納屋のシーン、何より映画全体の色合いに、私は小説のページをめくるときのまぶしさを思い出したし、いまは早く原作を読み返したくなっている。
特にぐっときたのはキャシー役のキャリー・マリガンでした。彼女の存在が、この物語の肝心な部分でもある「設定」を生きるということの、あきらめでもなくかといって抵抗がないわけではないという繊細な立ち居地に説得力をもたせていたと思うし、そのことが、映画化に際して変更が加えられた部分(映画はラブストーリーが主軸になっていたと思う)と原作をうまく繋いでいた。
ただ、その「設定」について、小説を読んでいたときは感じなかった腑に落ちなさを感じたりもして、それは小説と映画という「場」の違いによるものなのかもしれないなと思いました。
あと個人的には衣装もとても気に入りました。キャシーの服装はとても好みだったし、大人になってからのトミーのあの首元の少しだらしない感じなどはイメージにぴったりだった。
個人的に、原作の中でもっとも好きな場面であるトミーの回想については、映画で描かれていない。でもこの映画があまりにも自分のイメージに近かったことで、むしろそこはイメージのままとっておくことができて、よかったとも思いました。