- 作者: テッド・チャン,浅倉久志・他
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/09/30
- メディア: 文庫
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イーガンと比較されているのを何度か見たことがあったのだけど、個人的にはもう少し印象が柔らかいように思った、けれど、それは訳者の印象かもしれません。特に「顔の美醜について」の生き生きとした言葉づかいは、って今確認してみたら、やっぱり浅倉久志さんだった。
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特に印象に残ったのは「地獄とは神の不在なり」という短編でした。神が「いる」という世界を舞台にした物語で、しかも天使の降臨がほとんど災厄のように描かれている。っていうとイメージするのはキリスト教で、あとがきにも「ヨブ記」がアイデアのもとになっていると書かれていたけれど、とくに宗教を限定しなくても「神を信じる」とはどういうことなのか、という話としてとても面白かった。それで思い出したのがグレアム・グリーンの「ことの終わり」で、ラストがいまいち思い出せないものの、読み終えたときの驚きは近かったような気がする。
それから「顔の美醜について」。これは人の容姿についての価値観をフラットにする「カリー」という美醜失認処置をめぐるドキュメンタリー風の短編。先にも書いたけれど、さまざまな語り口を訳しわける浅倉久志さんの訳が読み心地の良い作品だった。
そして、読んだ人に感想を聞いてみたくなる話でもある。人は他人を差別する。その差別の基準について、作者自身が自らを疑っていることが覚え書きからもわかる。そこが、文章の端々に見える潔さの所以なのかなと思った。テーマはたぶん、ティプトリーの「接続された女」に近い。
そして表題作については、このアイデアを物語にできるっていうことが、すごいと思った。とはいえ、ちゃんと理解できているのかあやしいのだけど、読みながらずっと思い浮かべていた作品のことが、作者による覚書に登場しているのを見つけて嬉しくなった。