ソウル旅行日記(1日目)

先日、初めての韓国(ソウル)旅行に2泊3日で行ってきました。
行こうと思った理由はいくつかありますが、メインの目的は「おいしいものをたくさん食べる」+買い物もできたらいいな〜という感じ。事前に同行する妹とお互いの行きたい場所をプレゼンした状態で向かいました。
初韓国の感想を簡単にまとめると「ご飯がおいしい」と「思ったより外国だった」です。
TLには、フットワーク軽く韓国に行く方々がたくさんいるので、なんだかすごく気軽に行ける場所という気がしていたのですが、近いのは確かだけど、やはり外国なので多少は困ったこともあった(まあそれが旅行の醍醐味ですが)ので、備忘録を兼ねた日記です。

出発

朝4時起きで成田へ。海外は久しぶりだったけど、ICパスポートになったせいか出国審査が一瞬すぎてびっくりした。免税をちらっと見て、お茶して待つ。
飛行機は2時間程度。話をしてたらもう着いたって感じで本当に近いんだなぁと痛感しました。入国審査もICパスポートだとあっという間。

外に出ると、むわっとした熱気とともに、明らかな異国の匂いがした。「韓国は空港からキムチの匂いがすると聞いていたけど、これがそれかな?」「キムチというよりニラの匂いでは……」なんて話をしながら「A’REX」(スカイライナーみたいなもの)でソウル駅へ。
窓の外を見ていると、次々に車に抜かされていたのでスピードがでてるのかは不明だったけど、約40分程度でソウル駅に到着。これが日本円で1000円かからずに乗れるのはとても安い。(切符はカード式で、改札降りたところでカードを返却すると500W帰ってきます)

早速迷う

14時半頃ソウル駅に到着し、まずは現金を作ろうと駅構内で両替をして地上に出る。
ここからホテルのある東大門方面へは地下鉄で移動する予定でした。なので、とりあえず地下鉄を探さなきゃ……と歩き出してはみたものの、案内が全てハングルで全然読めない。つい、いつもの癖でGoogle mapに聞いてみると、地下鉄ソウル駅は今いる場所の”真裏”みたいにサジェストされた。
なのでトランクを引きずってどうにか駅の向こう側に行けないかとうろうろ歩いてみたんですが、なんかどうも違う気がする……。


途方に暮れてたソウル駅前

そうして30分近く迷った末にスタート地点にもどり、ようやく地下鉄は地下にあるのでは…? ということに気がついた。
A’REXが到着したのも地下だったので、スカイライナー的に全く別の場所に地下鉄の駅があると勘違いしてしまってたんですよね。
そうして地下に降りてみるとあっさり地下鉄が見つかり苦笑。表参道くらいの混雑具合に揉まれつつ、ホテルのある東大門歴史公園駅へ到着しました。

ちなみに、地下鉄に乗る前にTmoneyカードというsuica的なチャージ式カードを買ったんですが、これがなんか種類によって値段が違うのは謎でした。とりあえず一番安いのを買って、1万W(約1000円)チャージ。これで3日間足りたので韓国は交通費が安い。

広蔵市場

ホテルにチェックインして荷物を置き、身軽になってまず向かったのは広蔵市場。
朝、成田でドーナツを食べたきりなので完全にお腹が空いていて、ちょうど良いコンディションです。
市場をぐるっと回ってみると、ある程度ジャンルごとに屋台が配置されていることがわかる。
事前に予習目的で見たnetflix番組「ストリートグルメを求めて」広蔵市場回にでていたカルグクスのおばちゃんを見つけて盛り上がったりしつつ、まずは緑豆チヂミを購入。ふっくらしたパンケーキ状のチヂミをさらに油で揚げたジャンク感のあるチヂミを紙コップに刺して手渡され、それを歩きながら食べる。カリカリしていてとてもおいしかったけど、何かしらのタレが欲しい……とも思ったので、チヂミはテイクアウトじゃなくて座って食べる方がいいのかもしれない。
そんなことを思いながらキンパエリアをうろついていると、威勢のよいおばちゃんに呼び込まれ、ちょうど飲み物も欲しかったことだしと着席することに。キムパを2種類と私はビール、妹はマッコリを頼んで着席。
キンパにはからしだれがついており、これもなかなかさっぱりしていておいしい。となりにはおしゃれな現地のおじいさん三人組が座っていて、すでにマッコリをボトルで3本くらいあけていて楽しそうだった。蒸し暑い日だったのでビールも美味しく、すっかりのんびりした気分になる。
他にもユッケとか色々食べたいものあったのでここはぜひまた行きたい。




休憩と地図

ソウル駅で時間を食ったせいもあり、この時点で既に17時近くなっていた。
とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着きたいということで、友人のインスタで知ったカフェtwofficeに向かう。

ビルの5階くらいにある見晴らしの良い、素敵なお店でした。

コーヒーを飲みながら、今夜の予定を話し合い、行きたい場所の地図を検索しておくことに。
初めての韓国旅行で意外だったのは、人と話すのには英語や片言の韓国語を混ぜて通じるけれど、とにかく文字が難しいということでした。特に標識の類がほぼハングルで、例えば「広蔵市場」と認識してても漢字の標識はないというのにちょっと戸惑った。
ハングルが読めるようになる本とかも読んでいたのですが、仕組みはなんとなくわかったもののまだ全然読めるには至っておらず、せめてアルファベットでふりがながふってあれば……と思うんだけどアルファベットもあんまりない気がした。
アジアは中国(上海)と香港数回、ベトナムインドネシアとタイに行ったことがありますが、街中の文字の見当のつかなさは韓国が一番かもしれないと感じた。(タイ語も難しいけどタイは割と英語表記が多かった印象)
なので地図が頼みの綱。
とりあえず出発前にコネストの地図アプリ*1を入れておいてよかったと思った。

休憩したあとは、東大門のファッションビルをいくつか見てまわる。DOOTA MALLのコンバースでスニーカーを1足買ったあと、ハローapm 、LOTTE FITINあたりをのぞく。雰囲気的にはファストファッション中心という感じで「アルタっぽいよね」「アルタより上野かな?」とか言いながら眺めるだけ眺めて、晩ごはんへ。

蟹からのTHE MASK SHOP

同行した妹の食べたいもの第1希望がカンジャンケジャン(渡り蟹の醤油漬け)だったのだけど、予定していたお店は予約が取れず、ネットで検索して向かったのはアグランコッケランという東大門のお店。
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ここは御徒町あたりの食堂を思わせるような、のんびりした雰囲気の店だった。
カンジャンケジャンを頼むと、チヂミやキムチなどのお惣菜もついてきてめちゃくちゃ豪華な食卓に。
蟹は食べるのが難しかったけど、甲羅にご飯を入れて蟹みそ和えご飯を作って食べるのは天才的なうまさでした。
ここでも結局ビールを飲む。韓国のビールはどれもアサヒスーパードライに似ているな…とか話していたら、ホテルのテレビでアサヒスーパードライのCMをたくさん見て、スーパードライ系の味が人気なんだろうなと腑に落ちたりした。

晩御飯の後は、THE MASK SHOPという東大門の化粧品卸売店へ。欲しい化粧品はだいたいここで買うつもりで気合いを入れて向かったのですが、実際めちゃくちゃ安かったです。日本で1枚300円程度で売ってるパックが1枚100円以下だったりする。
ただ、テスターとかはないので、事前にリサーチして欲しいものをピックアップしておくのが大切だと思いました。
私はパック(箱入り)を3種類と、too cool for schoolのシェーディング(RPDRの影響)と、前に使ってよかったイニスフリーのパウダー(500円くらいだったのでは…?)などを買いました。
ちなみにここは現金しか使えないので行く前に両替しておくのが必須とのこと。

この時点ですでに22時近かったのですが、さすが東大門、アクセサリーショップなども絶賛営業中だった。中をのぞいてみたものの、携帯でおそらくfacetimeしながら買い物をする人でごった返しており、あっという間にくじけて退散。
足が痛くなってきたので予約していたマッサージ屋さんへ向かうことに。

マッサージ

東大門なのでマッサージ屋さんですら23時に予約ができてしまう…。短い旅程の中、ギリギリまで遊べる東大門に宿をとったのは正解だったね~と言い合いながらハローapm内にある「柔精 手の香り」へ。

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ここは本当に最高だった…。韓国式経絡美人ケアという背中&顔のコース事前に予約しておいたのですが、施術中特に説明などはなく、背面から全身マッサージしてもらって股関節や肩をじっくりほぐされ背中にパックまでされて、「これはもしかして背中中心のコースだったのかな?」なんて考えていた。
しかしそこから仰向けになると、顔にも同じくらいの時間をかけて丁寧に施術してくれたので驚いた。歩き疲れた足もじっくりほぐされて随分楽になる。
「月イチで来たい」と言い合いながら足取り軽くホテルに戻ったのが1時くらい。疲労困憊だったけど根性でシャワーを浴びて就寝。1日目が終わりました。
(2日目に続く)

「ウィッグはヒーローマント」と語るアリッサ・エドワーズの魅力

引き続き「ル・ポールのドラァグレース」にはまっている毎日ですが、今日は私の推しクィーンであるアリッサ・エドワーズについて書きたいと思います。

アリッサ・エドワーズ(本名ジャスティン・ジョンソン)
1980年テキサス州メスキート生まれ。
ドラァグクィーンとして活躍しつつ、地元で「Beyond Belief Dance company」というジュニア向けダンススクールを経営するダンサー&振付家でもある。

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アリッサ(ジャスティン/上段真ん中で手をあげている)と教え子たち


ドラァグレースには各シーズン9〜14人のクィーンが出場しているため、現在放送中のSeason11を含めると、すでに140人近くのクィーンが出場したことになります。各シーズンに応援したいクィーンがいたし、今もインスタをはじめとしたSNSの更新を楽しみに見ているクィーンがたくさんいます。
特に好みなのは、S3のラジャやマニラ、そしてS5のデトックス、S7のヴァイオレット・チャチキやミス・フェイムなどといったファッション系のクィーン(ここに挙げた人はみんな好きです)。

しかし、アリッサについて言えば、正直なところファッションが好みというわけではないのです(似合っているから好きだけど)。
私がアリッサを好きなのは、滲み出る人柄の愛らしさはもちろん、勝つための努力を怠らない人だから。
それでいて、繊細だったり、自らのチャームに無自覚であったりする一面が垣間見えるところがたまらないんですよね…。
そうしてアリッサにはまった現在、以前は英語だと思うだけで目が滑っていたというのに、英語の動画を見まくり英語字幕をせっせとgoogle翻訳にかけて試行錯誤する日々を送っています。推しができると壁に見えたものになんとか梯子をかける気になるのですごい。

以下、私がいかにしてアリッサの魅力に気づき、ファンになったのかを書いてみたいと思います。

各シーズンの優勝者などについては触れませんが、Season5とAll Star2の内容に触れますので未見の方はご注意ください!

ドラァグレースとは?という話はこちらに書きました。
ドラァグクィーンたちが表現で競う:「ル・ポールのドラァグ・レース」が面白い - イチニクス遊覧日記


ル・ポールのドラァグレース Season5のアリッサ

私は、ドラァグレースでは「America's Next Drag Superstar」を本気で目指しているんだなと感じるクィーンを応援したくなるタイプです。アリッサもまた、S5の登場シーンからやる気に満ち溢れており、最初から好印象でした。

ただ、因縁のライバル、ココとの再会*1が用意されていたこともあって、2人の諍いをフューチャーされがちな演出が続きます。そんな中、アリッサは何度も「集中したい」「勝つために来た」と繰り返していました。
とはいえ、2人の関係は単なる喧嘩でもないんです。ダンサー兼振付家でもあるアリッサは、その特技を生かしたリップシンク強者でもありました。ココもその実力を認めているからこそ、ダンスチャレンジではアリッサをチームメイトに選ぶし、ココのピンチにココ越しのアリッサを映す場面もあったりしますが、アリッサは普通にハラハラした顔をしていたりする(逆も然り)。そんな風に、単なる仲違いとは違う、熱いやりとりが見れるのもよかった。

しかし徐々に、アリッサは演技やコメディのチャレンジは苦手なことが明らかになっていきます。
ep5のスナッチゲーム*2では、全然似ていないケイティ・ペリーを披露し(しかし前の週に勝って生存権を得ていたためボトムにはならず)ル・ポールから直々に「ツイッターで謝罪しなさい」と言われてしまう始末……。
そこでアリッサは「コメディアンになるためにやってるんじゃない」と発言したりしますが、ドラァグレースでは一つだけ得意な分野があっても勝てないんですよね。「ボトムになってもリップシンクで勝てばいい」と発言してしまう場面もありましたが、やはり連続で勝ち続けることには限界がある。

そしてついに、アリッサは因縁のライバル、ココとのリップシンクで敗退してしまいます。
その回、ル・ポールは「あなたはファニーだし美しい。全てを兼ね備えているけど、長所を活かす方法を知らないみたいね」と評します。

そのように、S5でのアリッサは、やる気はあるけど苦手分野がはっきりしているクィーンだな、という印象でした。
しかし持ち前のちょっと大げさなリアクション(舌を鳴らすタンポップなど)がチャーミングだったり、何か面白いことがあると1人で笑ってたり、背中の肉を指摘されたり、鏡ばかり見ているのを突っ込まれたり……というちょっととぼけた魅力もあって、リユニオンの段階ではかなりの人気者になっていたことが伺えました。
例えば失敗の部類に入る香水のCMを作るチャレンジでの謎キャッチコピー「Alyssa's secret」(シークレットって何?と問われて答えられなかった)が受けて、100本以上もあるyoutube番組になってたりします*3

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AS2の番宣で作られたS5のベストシーン集(公式)


All Stars2での面目躍如!

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All Stars2 のトレイラー

ドラァグレースには、それまでのシーズンに登場したクィーンたちが再集結して競う「オールスターズ」という番組もあります。
基本的な構成はドラァグレースと同じだけど、最後は勝者2人がリップシンクをしてボトムの中から脱落者を決める…というなかなかハードなルール*4

そして私がアリッサにはまったのは、このオールスターズがきっかけでした。

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まず第1話にタレントショーという、各人の得意分野を披露する回があるのですが、このアリッサがまさに水を得た魚だった。アラスカ曰く「これこそまさにアリッサ・エドワーズ」。
もちろん得意のダンスで挑んだんですけど、それだけじゃなくて「背肉は減らしてカムバック」などと自分をネタにした小話も混ぜてくる用意周到ぶり。しかもなかなか真似できないようなすごいスプリット技も入れてきて会場を沸かせます。得意分野だけあって表情は自信に満ち溢れていて、あーーこの人は本当にエンターテイナーなんだなと痛感した瞬間でした。


この自信に満ち溢れた表情が大好き

そして2話目のスナッチゲームもしっかりと準備してきていて、今度こそル・ポールを笑わせます。
さらにおそらく「alyssa's secret」の二の舞を期待して企画されたのかな…?と勘ぐってしまいたくなるCM制作チャレンジ(ep6)でも、自分のキャラクターを活かしたエナジードリンクのCMを作ってクリア。

この辺りで、審査員にウケまくるアリッサに対して「アリッサだからオッケーみたいなのが気に食わない!」と不満を貯めるクィーンもいるのですが*5、S5でのアリッサを見れば「アリッサだからオッケー」なんてことはないのがわかるし、そう見える状況に持っていけたのは間違いなくアリッサの成長なんですよね。
そしてそうやって突っかかられても、アリッサは「どうした?」「リラックスリラックス」みたいなリアクションで全然堪えてないのがすごい。
思えば喧嘩してた時のココにすら「これめっちゃ面白いんだけどww」みたいに話しかける人なので(それにウケてるのはアリッサだけだったりもしますが)基本的に気のいい人なのだと思います。

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ワークルームでパックをしてる姿を見たのはアリッサだけです笑

AS2後のインタビューでアリッサは、「S5の時にル・ポールにファニーと言われて混乱した。私は常にシリアスだったから」と語っています。しかしテレビで自分を見てみて、自らのファニーさに気づき、それを魅力に変える方法を模索して挑んだのがオールスターズだったのでしょう。

スナッチゲームでルーを笑わせた、チェック! 今年は謝らなくていい。コメディチャレンジでも勝った。チェックチェック! ガンガン行くわよ」

このように自らに課題を課して、それをクリアしていくところが最高にかっこいいと思ったきっかけでもありました。

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S5からAll Stars2への変遷について語っているインタビュー


アリッサの人柄が見える「ダンシング・ドラァグクィーン」

netflixには、アリッサを主役にした「ダンシング・ドラァグクィーン」という番組もあります。これはテキサスで子どもたちにダンスを教えるジャスティン・ジョンソンの日々と、アリッサ・エドワーズとしての活動を並行して紹介する、ファンにとっては夢のような番組です。

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それと同時に、この番組ではアリッサの家族の問題についても度々触れられていました。
幼い頃、父親にダンスを習うことやゲイであることを否定されたこと。きょうだい達の薬物問題や逮捕歴。身近に手本となる人がいなかったからこそ、家を出なければと思い、18歳でそれを実行したこと。
S5のuntucked*6に、アリッサの父親からビデオレターが届く回がありました(ep6)。そこであのいつも陽気なアリッサが涙を見せる場面があります。
オールスターズ2(ep7)に妹が現れた場面*7でも、アリッサは再び涙を見せます(実はその日がお母さんの一周忌だった)。
どちらも、アリッサの繊細な側面が見えて、とても胸を打たれる場面でしたが、この「ダンシングドラァグクィーン」ではそのような場面の背景が語られていたりもします。
だからこそ、家を買う場面(ep2)で「愛でいっぱいの家にしたい」と夢を語る様子がたまらなく愛おしく感じられたりもしました。

それから、この番組ではアリッサが恋には非常に奥手であることもわかります。
S5で「エクスタシーを感じている演技」を酷評されたりしていましたが、ダンシングドラァグクィーンで「仕事中心だからシングルなの」と話していたり、ep2でデートをしてみたけど全然話が盛り上がらなかったりする様子を見ているうちに、
そういえばS5のリユニオンで、衣装を酷評したサンティノ(審査員の1人)と「ホテルでも行って仲直りしなさいよ」とルーに茶化され、足をばたつかせて照れたりしていたっけ…と思い出し、かわいいかよ…と思いました。

そんなアリッサを支えるドラァグドーターのシャンジェラやラガンジャとの関係性も垣間見れる、とても素敵な番組です。


「ウィッグはヒーローマント」

ダンスとの出会いは忘れもしない。新聞でダンススクールの広告を見つけて、おじさんの家で芝刈りをしてお小遣いをもらい、ダンスを習わせてもらった。
ダンスは自己表現の手段だった。言いたいけど言えなかったことが動きで表現できた。
昔の自分のような子どもに、ダンスで人生を謳歌してほしい。

ダンスとの出会いについてこう語っていたアリッサにとって、ダンススクールで子どもたちを指導することはとても大事な仕事なのだと思います。
ダンススクールのインスタなどを見ていても、子どもたちを指導することに本当に真摯に取り組んでいるのが伝わってくる。あと時折子どもに負けないくらいピュアで眩しいくらい…。

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さらに、アリッサとしてドラァグをすることについてはこう語っています。

「アリッサは非常口のようなもの。エレベーターが壊れた時の階段みたいなものよ」
「例えるならブルース・ウェイン。日中は経営者の顔をしていて、講師であり指導者。そして夜はウィッグとメイクがヒーロマントなの」

ジャスティンとしてダンスの指導をすることも、アリッサであることも、彼が彼であるために必要不可欠なことだからこそプライドを持って努力するし、明るくハッピーであろうとするのかなと感じたインタビューでした。
ダンシングドラァグクィーンの1話目、ジャスティン(アリッサ)は「勝者は練習する、負け犬は文句を言う」と書かれたTシャツを着てダンススタジオに現れます。
私はいくつかの番組とインターネットの投稿を通してしかアリッサを知らないけれど、S5での悔いをオールスターズで覆してみせたアリッサを表している言葉だなと思いました。

本当にかっこよくてゴージャスで、大好きなクィーンです…!!

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*1:2人は元々友達だったけれど、ミスコンでアリッサが優勝した後、その権利を剥奪され、2位だったココが1位に繰り上がったという経緯があり、2年間口をきいていなかった状態で再会した

*2:有名人のモノマネをする定番のチャレンジ

*3:Alyssa's Secret - YouTube

*4:今の所、S1のみ異なるルール

*5:その気持ちもわからなくはないけど

*6:審査中のバックステージの様子を収録したサブ番組

*7:それぞれの家族の変身チャレンジがあった

2019年のゴールデンウィーク

2019年のGWは10連休らしい、ということは知っていたけれど、実はなぜ10連休になるのかは直前までわかっていなかった。なんとなくすべてがオリンピックのせいのような気がしていたけれど、あらたな元号発表とともに改元は5月1日に行われると知り、「もしかして今年の10連休って改元だから?」「いまごろ!?」みたいな会話をしていたくらいだ。


そんな平成の終わりに何をしていたかというと、私はマーベル・シネマティック・ユニバースMCU)にはまっていた。
10連休には興味があっても、なぜ10連休になるのかを知らなかったように、MCUのことも、興味はあれど「なんかたくさんあるから」と後回しにしたままだった。
履修をはじめたのは、エンドゲームという“最終章”の映画が公開されるらしいと知り、そうなったら絶対そのタイミングで見たくなるに決まってるから……というミーハー心ゆえのものだったのだけど、GWに入る頃にはまんまと、「せめて3年くらい前から追いかけていたかった……」なんて思っていたし、公開当時に見た際はハルク以外のキャラクターがわからなかった「アベンジャーズ」も、公開順に見ていけば、ヒーローが大集合するお祭りみたいな最高映画に感じられた。
ヒーローそれぞれの物語を知ったうえで「集合体」を見ることの、個別の物語がお互いに反応しあって輝く感じ。つまりアベンジャーズはドームコンサートだな……なんて納得の仕方をして、GW2日目にエンドゲームの予約をした。そして見た。このタイミングで一気に見たからこそ全ての記憶が新鮮で、そういう意味では良いコンディションでの鑑賞だったと思うけれど、やはりあともうちょっと、この物語の完結を夢想していたかったという気もした。
見た足で友達と合流してビールを飲みながら涙ぐみつつヒーローたちを讃える会をやった。5時間くらい喋ってたのに気づけばMCUの話しかしてなくて笑った。

GWの初日はバス旅行に行った。気心の知れたメンバーと親戚旅行みたいなテンションで、のんびり花を見たり、お弁当を食べたり、生まれて初めて「イチゴ狩り」をしたりした。普段めったに果物を食べない生活をしているため、おいしいいちごを食べてしみじみ感動してしまった。
実家で果物を積極的に食べるのは父親だけだったので、果物を見ると父親を思い出す。子どもの頃、父のコンデンスミルクを勝手に食べて(スプーンに出して舐めていた)は怒られたものだ。

いわゆる「平成最後の日」は実家にいた。
平成最後の日だから集まったわけではなく、GW中に皆の都合があうのがそこしかなかったのと、翌日が弟の誕生日だからだ。昼ごはんは手巻き寿司だったが、母が北海道から買ってきたうにがとてもおいしく、皆がうにばかりを狙い撃ちしていた。食後は甥っ子と遊んだり、兄弟でカードゲームをしたりした。インサイダーゲームという、伏せられたキーワードを会話で探りながらインサイダーを探すというゲームがとても面白く、全員めちゃくちゃ早口でキーワードを当てにいくスタイルなのが似すぎてて大笑いした。いい平成最後の日で、「誕生日おめでとう、明日だけど」と言って別れた。

インサイダーゲーム

インサイダーゲーム

友人たちと横浜で中華を食べた日には、中国式の獅子舞が各店を訪れるお祭りのようなものをやっており、友人2人が獅子舞(のようなもの)に噛まれたので無病息災でめでたかった。「令和」と書いてある月餅が売られていたりもして、そこはかとなくめでたい気分を味わう。

髪を切りに行った日にも、エンドゲーム後の友人と急遽予定を合わせてMCU話をした。
いろんな人の感想を読んでいくと、やはり長いシリーズだけに、それぞれに思い入れを携え劇場に向かっているのだなと感じる。そして、その高揚感みたいなものが、やはりドームコンサート(概念)みたいだなと思ったりする。こうして映画を見てすぐ勢いで集まって喋る……みたいな、まるで炭酸水が胸元でずっとくすぶってるような感覚は久しぶりだった。

MCUにはまったとはいえ、引き続きドラァグレースにもはまっていて、令和最初の日には念願のドラァグレース会もした。カラオケ店でテレビにPCをつなぎ、推し(アリッサ)の最高シーン特集をしていたらあっという間に3時間が過ぎていて笑ってしまった。カラオケ店を出た後も、飲みながら延々とRPDRやクィーンたちの話をしていて、大変充実した1日でした。楽しすぎた。
お店の店員さんに「令和最初のご予約をどうも」と言われ、そういや今日からかと思いだしたんだけど、令和もこうして好きなものにわくわくしていたいものです。
GW中は、別の友人にも「ドラァグレース見てるよ!」と声をかけてもらい、その時も嬉しくてめちゃくちゃ早口になった。RPDRは本当に楽しい。この楽しさについて、もうちょっとうまく言語化できるようになりたいなと考えているところ。

家でポテトチップスサンドを作った日もあった。これはとてもうまくできたので今後もより良い(自己流のではあるけど)レシピを探っていきたい。
掃除へのモチベーションをあげるために「KONMARI」を見はじめ、「クローゼットの中身を全部ベッドの上に出す」というステップを真似してみたりもした。
これは確かに良い方法で、一度出して全部を目の当たりにすると、必要なものと不必要なものがわかりやすくなるし、自分が持っている服の再確認にもなるため、久しぶりに着たいと思える服も見つかって嬉しかった。
結果的にクローゼットの中身を1/3程度減らすことができたのでこれは成功だったと思う。

GW最後の日は、友人の家に集まった。かつては毎晩のようにファミレスに集ってはくだらない話をしていたメンバーだったけど、全員が集まるのはとても久しぶりでーーそれこそが問題だったのだと私たちは薄々気づいていたにもかかわらず、長らく動けずにいたのだ。
荷物の整理をしていたら見つけたという、過去の自分が送った手紙類を見せてもらい、そのあまりのくだらなさに笑ったりもしたけれど、そこからずいぶんと遠くに来たことを感じたりもした。
でも今またこうして顔をあわせて話せているということは、少なくとも良いことに数えられるだろう。

いわゆる節目らしいことはなにひとつしていないけれど、いつか、平成の終わりは何をしていたっけな〜と振り返った時に、いい10日間だった、と思えるような気はする。
ただ、この落ち着きのなさは、この日記をはじめたときのプロフィール文「あたまのなかくらいきちんとかたづけたいのになかなかうまくいかない」が放置されてきた証拠でもあるため、新しい年号では少しくらい頭の中が整理できていることを願ってみる。

両方見るとより楽しい! 舞台「キンキーブーツ」と「ル・ポールのドラァグ・レース」

舞台「キンキーブーツ 」を見てきました*1
見てる間中ずっと楽しくて幸せで、そんな気持ちが目から溢れてしまうくらい、最高の最高に楽しかったです。
2016年版(一回だけ見に行けました)ももちろん素晴らしかったのだけど、今回はさらにキャストの魅力がパワーアップしていたように感じます。
本当に目が足りなくて、ずっと見ていたかった…。

初演の頃はまだドラァグクィーンがどのような存在なのかほとんど知らずにいたのですが、今回は「ル・ポールのドラァグ・レース」(ドラァグ・クィーンのリアリティ番組)にはまっている最中と言うこともあり、なるほど!と思うところも多かった。
そんなわけで、浅い知識ではありますが、せっかくなので、私が感じた「キンキーブーツ 」と「ル・ポールのドラァグ・レース」両方見ると楽しいと思うポイントを中心に、感想を書いておこうと思います。

〈キンキーブーツあらすじ〉

イギリスの田舎町ノーサンプトンの老舗の靴工場「プライス&サン」の4代目として産まれたチャーリー・プライス(小池徹平)。彼は父親の意向に反してフィアンセのニコラ(玉置成実)とともにロンドンで生活する道を選ぶが、その矢先父親が急死、工場を継ぐことになってしまう。
工場を継いだチャーリーは、実は経営難に陥って倒産寸前であることを知り、幼い頃から知っている従業員たちを解雇しなければならず、途方に暮れる。
従業員のひとり、ローレン(ソニン)に倒産を待つだけでなく、新しい市場を開発するべきだとハッパをかけられたチャーリーは、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラ(三浦春馬)にヒントを得て、危険でセクシーなドラァグクイーンのためのブーツ“キンキーブーツ”をつくる決意をする。
チャーリーはローラを靴工場の専属デザイナーに迎え、ふたりは試作を重ねる。型破りなローラと保守的な田舎の靴工場の従業員たちとの軋轢の中、チャーリーはミラノの見本市にキンキーブーツを出して工場の命運を賭けることを決意するが…!
ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」公式サイト

ドラァグレースについては、こちらに書きました。
ichinics.hatenadiary.com

ローラとエンジェルスについて

再演とはいえ初めて見るお客さんだって多いはずなのに、ステージにローラが現れたとたんに割れんばかりの拍手喝采になるのがすごかった。それによって、演出が途切れるわけではなく、その喝采がまるで「ローラ」を待っていたクラブのお客さんのもののように感じられて劇場の密度ぎゅっと濃くなる。これはやっぱり、三浦春馬さん演じるローラの迫力によるものだと思います。
ドラァグレースではドラァグスーパースターの条件として「charisma uniqueness nerve and talent」が掲げられていますが、ローラはその全てを兼ね備えているな~と思いました。

ドラァグレースはアメリカの番組なので、キンキーブーツの舞台となるイギリスのドラァグクィーン事情や日本のドラァグ文化とは異なる部分もあるかと思いますが*2、ローラとエンジェルスの関係については、先輩格のローラを中心としたドラァグファミリーに近いものなのかな?と思いました。
そう思って見ていると、ローラが一番細くて高いヒールを履いてるのも、このチームのドラァグマザーであり女王だから、って感じがしてかっこいいです。(もちろんそれで歌もダンスも決めてくる三浦春馬さんがすごい)

ドラァグクィーンとデザイン

「キンキーブーツ 」の1幕、チャーリーがローラをデザイナーにスカウトする場面で、「スパンコールとグルーガンで夢の王国を作ることならできるけど(大意)」みたいに返す場面は、ドラァグレースにもよく出てくるやりとりです。
ドラァグクィーンは「着飾る」存在だし、だからこそドラァグレースでも衣装作りは重要な課題として位置付けられています。でももちろん全部のクィーンがミシンを使えるわけではなく…。
そこで登場するのが「グルーガン」。DIYなどでもよく使われる、接着剤を熱する道具で、溶かした接着剤が固まることで強力な接着ができる…というもの。ドラァグレースでは、なんとこれだけでゴージャスなクチュールドレスを作ったクィーンもいました。


season6に出演したベン・デラ・クリームのこのドレスがグルーガンで作られたもの…!

そして「スパンコール」…! ドラァグレースでは「sequin(シークィン)」という呼ばれ方をしていることが多い気がしますが、スパンコールでグリッターなドレス、というのがランウェイテーマになるくらい、ドラァグでスパンコールは大事な素材です。
そして彼女たちがキラキラを愛しているのを見るたび、それをまとうことが夢を生きることに重なって見えてグッとくるのです。
だからこそ、チャーリーが何度も靴の作り直しを命じる場面、ついにヒールがキラキラしたのを見た瞬間、めちゃくちゃ綺麗で感極まってしまいました…。

ドラァグクィーンと家族

劇中、ローラが周囲に合わせるために「ローラ」を封じて現れる場面があります。ローラの「向かうところ敵なし」のパワーから一転して、自分の「らしさ」を封じた状態がいかに心細く居心地の悪いことなのかを見せる。それによって、彼にとってローラがどれほど大事なものなのかがよくわかる重要な場面です。
その後、チャーリーとローラがお互いについて打ち明けあい、共通点を見出すのですが、そこで歌われるのが「not my father's son」という曲。2人とも、父親の理想の息子になれなかったと考えていて、それが後悔であったり心に負った傷だったりする。

ドラァグレースでも、クィーンたちがこんなふうにお互いについて打ち明けあう場面がそこここに見られます。そして、ローラと近い体験をしているクィーンが本当に多いことにも驚かされます。
それでも、知る人が増えていけば、受け入れることが当たり前な社会へと変わっていくという期待はある。「キンキーブーツ 」も「ドラァグレース」もそのための1歩になっている作品なのだと思います。

ドラァグクィーンとランウェイ

靴のデザインをする物語なので、ラストシーンがランウェイなことに何の疑問も持っていなかったのですが、RPDRを見ていると、ドラァグクィーンの文化にとって「ランウェイ」はとても重要なものなのだとわかります。
RPDRは、80年代ハーレムのゲイカルチャーから生まれた、ダンスやファッションで競いあう「ボール・ルーム」というイベントを元にしているそうですが、
ローラがデザインの実力を発揮するのも、ラスト、ランウェイを盛り上げて見せるのも、おそらく彼らがそのような文化の中に生きてきたからなんだなと思いました。

ちなみにドラァグレースでは、ヒールが低いと必ず審査員に「ずいぶん弱気ね?」などとツッコミが入ります。でもローラのヒールはル・ポールだって褒める高さだったと思います。あのピンヒールであれだけ踊るのは本気ですごい…。クィーンの中には「もちろん靴の中は血まみれよ」とか「踊っても脱げないように靴の中にテープ貼って固定するの」なんて人もいます。それでもヒールを履くのは、それが最高にかっこよくなるために必要だからなんですよね…。

ドラァグクィーンとは?

初めてキンキーブーツを見た頃は、ゲイカルチャーの中から生まれたものであるということは知っていても、彼らが何を求めて異性装をするのか、正直なところよくわかっていませんでした。
けれどドラァグレースを見ているうちに、それは単なる「女装」ではなく(中にはトランス女性もXジェンダーもいるし)、自己表現であり、自由になるための第一歩なのだと感じるようになりました。
ドラァグをやる理由はもちろん人それぞれだけど、ドラァグキャラクターは自分のペルソナだと語るクィーンは、少なくともRPDRの中では、特に多い気がします。
そうやって自分の理想を具現化して生みだした「クィーン」だからこそ、皆最高に美しい自分を誇らしく思っているんですよね。その様子が見ていてとても気持ちが良い。
私の推しクィーンは「ウィッグはヒーローマント」だと語っていましたが、現実に立ち向かうために、ウィッグやスパンコールで自分を飾ってハイヒールで歩きだすというのは、「キンキーブーツ 」のローラのあり方とも共通しているなと感じました。

キンキーブーツを好きな人にぜひドラァグレースをみてほしい!

いろんな人のドラァグレース感想が読みたい!という私の下心なのは最初に白状しておきますが、このダンスパフォーマンスはキンキーにおけるローラとエンジェルスたちのパフォーマンスにちょっと近いとこあると思うのでぜひ見てほしいです。

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ちなみにこれはドラァグレースS7の最終回(優勝者の発表)前のパフォーマンスなので、S7のハイライトのリミックスが音源になっていたりしますが、彼らもそれぞれドラァグレースに出場しています(アリッサ=S5、シャンジェラ =S2とS3、ラガンジャ=S6)。

最初に出てくるアリッサ・エドワーズ(私の推しです)と、そのショーを手伝ったりしているドラァグドーター(というよりシスターかもしれない)のシャンジェラとラガンジャ3人のパフォーマンスです。
この関係性もローラとエンジェルスにちょっと近いところがあるなと思ったのと、ピンヒールでランウェイを使って踊りまくるかっこ良さが近いのではと思いました。それから、2分くらいのとこで出るスプリット(立ったまま開脚して床に落ちるドラァグクィーン定番の決め技)はキンキーのエンジェルスもやっていましたね!

ドラァグレース本編はランウェイが中心ですが、ダンスや演技、歌のチャレンジもありますし、その準備をする作業部屋でのクィーンたちのやりとりを見るのも楽しいです。

最後に

ドラァグ周りのことばかり書いてしまいましたが、もちろんローラとチャーリーを取り巻く人々も皆素敵。特に好きなのはソニンちゃん演じるローレンが恋に落ちちゃう場面。あんなのもう好きになるしかないし、それでいてニコラを悪役にしないのもこの舞台の好きなバランスです。
それからドンとローラの対決シーンの演出もめちゃくちゃかっこいい。クィーンの足でリング作るのもお尻にゴングがついてるのも最高にキュートだし、ローラが何をしたのか、エンジェルスがちゃんと把握して動いてるのもよかった…。
ほんと出てるキャラクター皆好きになってしまう舞台だと思います。

自分を受け入れ、相手を受け入れる。そうすることで自分と世界をもっと好きになれる。そんなポジティブなメッセージがまっすぐに伝わってくるのが「キンキーブーツ 」の大好きなところです。

*1:2019.4.20昼公演

*2:ドラァグレースは現在UK版が制作中?とのことです

四角いピザ

彼女と仲良くなったのは高校2年の時だった。出席番号で隣の席になって、合唱の練習中(私たちが通っていた高校では毎年クラス対抗の”合唱コンクール”が行われていた)、楽譜で口元を隠しながら遊びに行く約束をしたのを覚えている。
彼女の家はイタリアンレストランを営んでいて、私は彼女の家で生まれて初めて、ドミノピザではないピザを食べた。ポテトチップスをはじめとした「パリパリとした食感」の食べ物が好きな私にとって、そこで食べたクリスピーなピザは衝撃的なおいしさだった。作ってくれたシェフこと彼女のお父さんに「こんなおいしいピザを食べたのは生まれてはじめてだ」と伝え、その後もおじさんのピザをたべるたびに初めて食べたとき自分がどんなに感動したかという話をした。
おじさんは私のことをよく覚えてくれていて、彼女が呼ぶように私のことをあだ名で呼んだ。お店の食器を買いに行くのに連れて行ってくれたこともあるし、毎年クリスマスが近づく頃に“メニューの相談”と称してあれこれ試食させてくれもした。
進路は別だったが、大学生になってからも彼女の家にはよく遊びに行ったし、主に閉店後の「店内」で毎週のように話をしていた。今思うと何をそんなに話す事があったのだろうと思うが、お互いにあった出来事の大半を共有していた時期があったのは確かだ。業務用のコーヒーマシンをドリンクバーがわりに延々と居座る私たちを、おじさんは常に歓迎してくれた。


彼女が結婚して電車で2時間ほどかかる場所へ引っ越しをしたのは10年ほど前のことになる。
当時、2時間というのは大した距離ではないように思っていたし、実家に戻ってくればいつでも会えるような気がしていたのだけれど、
実際は連絡の途絶える時期が続き、年に数回、誕生日やお正月に「元気?」「相変わらずだよ」という程度のやりとりをするくらいになって、そのうちに彼女の実家のレストランも後を継ぐ人がいないという理由で閉店してしまった。


先日の朝、彼女からのメールで目が覚めた。
そこには、おじさんが亡くなったことと、彼女が今は実家に帰ってきていることが簡潔にかかれていて、こんなときだけ急に連絡をしてごめんねと結ばれていた。それは全くごめんねをいう必要なんてないことだ。けれど、そのくらい私たちの間には間隔があいてしまっていたのだということがショックだった。
呆然としつつ、慌てて喪服を引っ張り出し(よく見たら夏物だったので代わりにクリーニングタグが付いたままの黒のスーツを出して)お通夜にむかった。
顔を合わせるのは5年ぶりくらいで少し緊張していたのだけれど、顔を合わせてすぐに、そんなものは一瞬で溶けた。同時に随分痩せてしまった彼女の手を握りながら、なぜもっと早く会おうとしなかったのだろうと後悔してもいた。私自身は相変わらずでも、相手がそうであるとは限らないのだ。誕生日でもお正月でも、メールで済ませず、会いたいと言えば会えていたかもしれなかったのに。

おじさんは痩せてしまっていたけれど、でも私の知っているおじさんのままだった。
お通夜のあと、親族の方にまぜてもらってお寿司を食べながら、彼女の複雑な近況と、おじさんの闘病についての話を聞いた。おじさんは家に帰ってきてからはとても調子がよく、治ったら世界一周旅行に行く計画をたてていたのだという。
そうして私はまたあのピザの話をしていた。四角い鉄板に乗ってでてくるのも、生地がパリパリなのも、ゴルゴンゾーラチーズもそれに蜂蜜をかけるのも、ぜんぶおじさんの料理が初めてだった。
それを聴きながら彼女は「相変わらずお父さんのピザが好きだね」と笑った。