キングス&クイーン

監督:アルノー・デプレシャン

「映画」を見たなぁって、思った。とにかく、とても味わい深く贅沢な映画だった。
映し出される情景の雄弁さに引き込まれながらも、印象に残るのはストーリーよりもキャラクターの輪郭だったりするのは、常に登場人物の表情を最優先に、時にはイマジナリーラインなんて無視して、切り取っているからなのかもしれない。そしてそれが、人物それぞれの一人称を強調している。これは「そして僕は恋をする」などにもいえることで、デプレシャンの味、なのかもしれない。
物語は、ノラという女性と、複数の男性たちを中心に進む。ノラはとても魅力的な、しかし複雑な女性として描かれている。尊大さと高貴さを同時に保ち、かつその表情は慈愛に満ちているが、一人の時には深い苦悩を垣間見せる。
反対に、もう一人の主人公であり、ノラの元恋人であるイスマエルのパートは喜劇的に描かれ、彼自身も楽観的に、惜し気もなく言葉を連ねる。例えば「男は直線を死に向かって生きる。でも女は泡の中を移動してるだけだ」というようなことを精神科医の女性に言ったりする。
泡の中を移動するって、どういうことだかわからないな、なんて思いながら、ふと、私が見ている女性たちと、イスマエルが見ている女性たちは全く別人なんだろうなと思う。それと同じように、彼らひとりひとりの世界があって、それが重なりあいながら、映画の中で、物語を描いている。
「自分が正しいと信じることだ。もちろん間違うこともあるけれど、それも大事だ」とイスマエルはかつての息子に語る。どこかで読んだことのある「人は皆、自分の国の王であり女王である」というような意味の言葉を思い出した。
この物語が何だったのか、うまく言葉は見つけられないけれど、分かりあえない、ということの先に何かある感じがした。「なにか」としか言えないようなものが。