消えません

私が通勤に使っている電車は朝も夜もとにかく混んでいることで有名な路線で、ラッシュの時間帯には人と触れあわずに乗ることなんてほとんど不可能だったりする。たとえば、向かいあうカップルの間に入ってしまったり、同じくらいの身長の女の子と向かいあって詰まってしまったりすると、かなり気まずい。それでも、中学生のころからずっと同じ路線を使っている私は、それなりにうまい詰め込まれ方というのも心得ているつもりだった。
ただ、時には想定外の出来事というのもある。
例えば、昨日の帰りの電車で、とつぜん手首を掴まれたのもそれだ。
思わず振払ってしまったものの、あれ、わたしやっちゃった? さわっちゃった? と思い、見てもいない「それでもボクはやってない」が脳裏をかけめぐった。
それは、隣に立っていたカップルの女の子の手だった。女の子も驚いたようで、私に向かってかるく会釈をした後、笑いながら彼に向かって説明をはじめた。私と肩を触れあわせたまんま、私の頭上に顔がある彼に向かって、「ゆーくんの手かと思って手、掴んじゃったー」とか説明をしている。
うん、ものすごく気まずい。気まずいので目をそらそうと思うのだけど、首がまわらないので視線だけそらす。でも、ちらっと目を向けたタイミングに、まー、キスとかしてるし…。で、ちょっと消えたいとか思った。
数分後、やっとのことで電車をおりて、やれやれって歩き出してふと、掴まれた左手の感触を思い出す。そこでよりによって、そういえば、人と手を繋いたのって久しぶりかもねー、とか考えてしまって、また消えたいとか思った。
って話を妹にしたら「おねえちゃんきもい」っていわれたので、人生って理不尽だなと思いました。