純喫茶にて

いつものように会社帰りに、いつもの喫茶店よって本を読んでいたら、隣の席でおじいさんが、連れの人に「せつないんだよ」といってるのが聞こえて、どきっとした。
おれが、こんなに、がんばってるのにだれも認めてくれない、という話だったのだけど、事実がどうであれ、そう感じてしまうのはせつないよなぁと、思ったりしながら本に目を落としていた。が、おじいさんの声が涙まじりになるにつれ、ちっとも集中できなくなってしまって、片耳だけつけてたイヤホンもとって、聞き耳をたてはじめたのだけど、いよいよ泣くぞ、というところで連れの人が席を立ち、勢いをそがれたのかおじいさんは結局泣かずに、連れの人が戻ってすぐ店をでていった。
店に残された私は、ほっとしながらも、もう本を読む気分じゃなくなってしまって、窓の外に目をやった。
しばらくすると、先ほどの2人が手をつないで路地を横切っていくのが見えた。もしかすると、あれは、長年の付き合いで培われた阿吽の呼吸だったのかもしれないなぁ、なんて思いながら、すでにぬるくなったコーヒーを、啜った。