煙の色

指先に、少しおくれてねじれる煙の色を見ながら、その色は青いと思う。最初に煙草を吸ったのは「はじめて女の子と一夜を共にした後のこと」と言ったのは確か「ブルー・イン・ザ・フェイス」でオーギー・レンの店に最後の一本を吸いにくる男の台詞だったような気がするけれど、もうずいぶん昔に見た映画だし、文庫版も今見当たらないので、もしかすると私の記憶違いかもしれない。ただ、あの映画のあの場面を見た、まだ20代のはじめの頃の私は、つまり煙草とは、人生に連れ添う友人であると感じ、いや、確かにそれは云々、そして友人は煙草でなくてもかまわないというのも確かなことながら、ため息とともに吐き出され、形にならなかった幾つもの声と、灰が落ち、もみ消されるその瞬間に何かを重ねてしまう癖は抜けないでいる。
最初に煙草を吸ったのは「好きな子がいて、たぶんどうしようもなかったんだろうね、そのときに」と話す人の指先を眺めながら私は、自分の気持ちが思いどおりにならないということに、初めて驚いた日のことを考えていた。
そんなのは昔からあったはずなのに、ああそうか、気持ちは言葉にあるのではなくて、じゃあどこにと問いながら、手を離した瞬間、それは回転して、はねてしまうだろうことをなぜか知っている。そうなったらやっぱり、もうどうしようもなくて、つまり反応は、意志よりも先にある……なんて言葉で考えるようになったのは、もちろん最近のことなのだけど、それでも、
今の私はこの手が、そのかつてに届けばいいのにと思っている。ため息とともに、もみ消された幾本もの煙草を、拾い上げることができればいいのにと手を伸ばす、その衝動はきっと、いつかの自分の肩に手を添えることと似ていて、
いま目の前にある指先に、少しおくれてねじれる煙の、青の中に、いつかの背中が透けてみえればいいのにと、目を凝らしてみたりする。例えば冬の日、12月のはじめ、公園の隅っこにあるベンチで、大きく風が吹いて竹やぶが揺れてはじめて、日が暮れていることに気づくような、その瞬間に、居合わせることができたならと、思う。