チェリー

「君の犬」を聴きながら思い出すのは、チェリーという犬のこと。クリーム色した犬で、うさぎの人形がお気に入りだった。
チェリーは昔、私がつきあっていた男の子の家で飼っていた犬だった。初めて会ったときは怪訝な顔をしていたのに、その後は彼の家に遊びに行くたび玄関先まで迎えにきてくれた。公園や川沿いの道を、よく一緒に散歩した。コンビニやビデオレンタル屋さんに寄るときは、店先につなごうとすると悲しい顔をするので、どちらか一人はチェリーと一緒に待つことになった。
「うさぎ」というと、うさぎの人形をもってきてくれるのが得意技で、ちょっとしたことで喧嘩しそうなとき、どちらかが「うさぎ」といえば、チェリーが仲直りのきっかけをくれた。よだれまみれのうさぎと、ちぎれそうなチェリーのしっぽ。クリーム色した、目の大きな犬だった。
別れてずいぶん経った頃、友達の結婚式で再会した彼に、まず一番に訊いたのはチェリーのことで、

掘っても 掘っても 指先に
触れてくるのは 柔らかな 思い出ばかり

いろいろ、思い返すと切ないけど、あの頃のことを考えると、最初に出てくるのはやっぱり、玄関先まで迎えにきてくれたチェリーの、あたたかくて重い、前足の感触だったりする。