- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/07/28
- メディア: 文庫
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10人の女性の視点から語られる、 “ニシノユキヒコ” という男性は、たぶん魅力的で、おんなたらしで、それでいてやさしかったりする/したんだと思う。だから、彼が女性達に「モテた」というのはわかる気がするのだけど、私にはいまひとつ、ニシノユキヒコの魅力がわからなかった。…というのは物語としての面白さが云々ということではなくて、ニシノユキヒコみたいな、「どうして僕はきちんと女のひとを愛せないんだろう」なんて言ってみたりするひとは、めんどくさいなぁと思うからだ。そして、ユキヒコさんがどんな人なのか、なにを考えてるのか、そういうことを考えるときの手応えのなさに、いっそ遠ざかりたい気持ちになる。
例えばそのトラウマの描かれ方も、「ぶどう」に描かれるユキヒコさんの狂気も、どちらも切実なはずなのに、どこか空白な感じがして、それがまたせつなかった。
気持ちというのは常にあるものじゃなくて、空のところに浮かんでくるもの、なのかもしれない。あるような、ないような。ものに、形をつけて色をつけて名前をつけるのは物語なんだな。とか、自分にはまだよくわからないことがたくさんあるなあと、改めて思った。