おめでとう/川上弘美

おめでとう (文春文庫)

おめでとう (文春文庫)

久しぶりに川上さんの文章が読みたくなって、文庫で出てたこの短編集を買った。再読のつもりだったけどはじめてだった。
心細いようで、心強い、不思議な短編集だった。ここにおさめられている作品の多くは恋愛のお話で、しかもその恋や愛は、終わっているか、どこにもいけずにいる。心細さはたぶんそこにあって、でもたとえば「天上大風」の主人公のように、「春の虫」のショウコさんのように、あったことをあったこととして撫でるように、そっとしている人の姿は、心強い。
心強いけど、でもどこかかなしくて、こういうかなしさは、いつまでたってもついてくるものなのだろうなと思う。

「信じてるとね、ときどき気持ちが堅い金属みたいになっちゃうことがあった」
「え」
「堅くて、信じるとか信じないとかいうところからずっと離れなきゃならないほど冷たい、そういう金属」
(「春の虫」p64)

このショウコさんの言葉は、その意味よりも前に、しんとした感触があって、だからなんでだかはよくわからないのだけど、やはりどこか、かなしいと思った。