アスパラの肉巻き


解凍した薄切り肉(もちろん豚)をひろげて、アスパラや千切りゴボウを巻いていく。多少ぶかっこうでも焼いてしまえばはがれることはないので、大雑把にぐるぐる巻きにした後、小麦粉をはたきながらふと、そういえば昔、アスパラの肉巻きの夢をみたなぁということを思い出した。
それは、どこかのデパートで大人に連れられて歩きながら、何が食べたいかと訊かれ「アスパラの肉巻き!」とこたえる夢だった。夢の中の私は、ほんの5歳くらいの子どもで、手をつないでいたのは、見た目はだいぶ歳をとっていたけれど、当時付き合っていた男の子のようだった。
なぜそんな他愛もない夢を覚えているかというと、私はそのときまでアスパラの肉巻きを食べたことがなかったからだった。目が覚めてからも「肉巻き!」とさけんだ感触が喉に残っていて、そんなに食べてみたいのかと思ったらなんだかおかしかった。起きてすぐ、その夢の話をしてみたりもしたけれど、夢って話すほどに輪郭を失うようで、結局その台詞以外の細かい状況はもう忘れてしまった。
ともかく、その頃から、わりとよく肉巻きを作るようになったんだけど、なぜかいつも作るときは弁当用だった。
別に晩ご飯でもいいんだよなーと、菜箸で肉巻きを転がしつつ、たぶん初めて作ったのがお弁当だったんだなと納得する。たぶん砧公園で、花見。フライパンの火を弱め、味噌、しょうゆ、みりんを混ぜあわせたものを少しずついれてからめる。照りがでてくるとおいしそうに見える。出来立てを食べたほうがきっとおいしいのだけど、今日のこれも明日の弁当用だった。
しばらくさました後、ホイルをちぎって仕切りを作り、肉巻きをつめながらふと、「こういうの弁当って感じだよね」て言われたことを思い出す。
あーそうか、家族以外の人に料理を食べてもらったのって、あれがはじめてだったのかもな…とか思いつつ、いやそんなことないかと思い直してできたてを一本食べた。なんとなく、冷めてるほうが好きかもなと思った。