「レ・ミゼラブル」

監督:トム・フーパー

すごかった。ほとんどセリフはなく歌で会話するというところは今まで見たことのあるミュージカル映画のどれとも違っていたのですが、なんかすごいものを見た…という感覚に押し流されてそれを不自然に感じることはありませんでした。むしろ歌うまいなとかすら考えてなかった。
セリフがないということは、ほとんど説明をしないということでもあって、実際、時間的な飛躍がある場面のみ字幕で説明があるものの、そのほかはすべて歌で語られていました。これは、歌とその他のシーンの温度差に観客がさめてしまうすきを与えないという意味では効果的だったような気がします。ただ、ある程度あらすじを知っていたからすんなり物語が頭に入ってきたものの、原作をまったく知らない人にはちょっとハードルが高いような気もしました。

とにかく冒頭の囚人時代シーンから一気に引き込まれてしまって、ここではジャン・バルジャンは完全に野生の顔つきになっているのですが、そこからある慈悲に触れて生まれ変わることを誓うシーンが神々しくってねえ…。そして数年後の見違えるような品のよい姿には、人ってこんなにも変わるものなんだな、という驚きがありました。
物語は新たな絶望、からの救い、からの新たな絶望…の繰り返しで、もうヤメテー! と目を背けたくなるくらいなのですけども、その合間合間にある希望はほんとに眩くて、なかでもジャン・バルジャンがコゼットを迎えに行った帰り道のね、この子のために生きる、という期待にあふれた目は忘れられません。
そう言った意味でも、主演のヒュー・ジャックマンさんはほんとうにすばらしかったと思います。そして彼を追い続けるジャベールをはじめとした脇を固める面々もそれしかないというくらいの気持ちで見ました。

私が特に楽しみにしていたのは、エポニーヌの場面です。子どものころ一度、親に連れられて舞台版を見に行ったことがあるのですが、覚えているのはエポニーヌの歌(On My Own)の悲しさとジャン・バルジャンは力持ち…ということくらい、というほど、島田歌穂さんが歌うエポニーヌの「On My Own」は強烈だったのですが、この映画のエポニーヌもねえ、ほんとにいい子だし報われないし、恋するマリウスとコゼットが思いを通じ合わせる背後で悲痛な表情を浮かべているのにやっぱり彼らを思いやってしまうという場面には涙腺もついに緩んでそこから先はずっと泣きっぱなしだった気がします。エポニーヌ幸せになってほしかったわ…。
という具合にエポニーヌに完全に感情移入しつつ、マリウスとコゼットの光の粉まぶされてるようなキラキラ感もナイス配役だったと思いました。
ほかにもガブローシュ君の活躍やジャベールが彼にあるものを捧げるシーン、アンジョルラスの最期などなど、見所は多々あったし、ほんとすごいものを見た…という満足感でいっぱいになれたのでたいへんよかったです。すごかった。