- 作者: 古川日出男
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2005/09
- メディア: 単行本
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そしてその文章は、ロックンロールだ、と思う。ロックの定義は多々あれど、ここで重ねているのは、その「衝動」が「解放」に結びつく感じ。物語は常に地に、町の中にある。そこに様々な物語の断片がちりばめられている。それは私も知っている町であるはずなのに、まったく違う顔をしているように、見える。でもちゃんと、繋がっている。全部。そして、
そして、現在[いま]だ。午前十時五十三分は過ぎたね。きみはデスクにいて、平静を装ってコンピュータのディスプレイをにらみ、でも頭を抱えそうになっている。頭蓋骨がギチギチ言って割れそうなんだ。なにかが出てきそうなんだ。あふれて、デーモンみたいな生物[いきもの]が、ギチギチギチギチ、バカン、て。頭痛薬がほしい、と真剣に思ってる。なにも考えられないと思ってる。でもつぎの瞬間、考えてる。僕は誰だ? 僕はどれだ? 名前は? 悲しかった。そう、ボーイは真剣に悲しかったさ。この世でどんなことが最高に悲惨かって、自己喪失ってやつだろ。だからボーイは確認をはじめる。頭蓋骨をギチギチ言わせながら、自己確認だ。僕はただ愛がほしいだけなんだよ、とボーイは言う。恋愛体質なんだよ、とボーイは言う。ただそれだけなのに、許されないんだよ。だから戸田慎を殺して、だから分裂して。
「ワード/ワーズ」p233 [ ]部分はルビ
例えばこの箇所で描かれている破裂寸前の頭蓋みたいに、ここにある物語たちはいまにも本の外へ飛び出しそうにうごめいている。そんな物語を、読んだことがあっただろうか?
ちなみにこれは先日の三島賞受賞作でもあります。黒田潔さんによる表紙イラストもきれい。巻末には謝辞としてサウンドトラックとなったらしい音源も記されていたので(しかもイメージにぴったりだ/number girlの名前もある!/1話目の「二刀流」はもしかしたら向井アコエレにヒントがあるのかもしれない)、今度はそれらを聞きながら読みたいと思う。できれば外で。
個人的には古川さんの受賞はほんとうにうれしい。先日トークショウを見にいってますます大好きになってしまった(画像はそのときいただいたサイン)、私にとっては珍しく「本人」にも興味をもっている作家さんなので、佐々木敦さんのブログにあった、CSで古川さんのドキュメンタリーを撮っているという話も*1、楽しみにしてます。どこでやるのかなぁ。