四季〜ユートピアノ〜

ichinics2006-06-13
監督/演出:佐々木昭一郎
本当に、素晴らしい作品だった。私はこれを見たことを、きっと忘れないと思う。
この作品で描かれる、ひとつの音と季節を巡る、榮子という少女の物語は、ドキュメンタリーのような、物語のような、夢のような、不思議なリズムで描かれるのだけど、そこにある風景の断片は、確かに私の中にも、あったような気がする。光の速度でやってくる思いが。
初めて聞いたピアノの、ダイヤモンドのような、Aの音。やがてピアノ調律師となった榮子はAの音叉を片手に、自然の中に、町の中に、たくさんの音を見つけていく。音が、体の中で鳴ることを知っている。榮子が調律するピアノの傍で音に合わせて男の子が言う。「赤、緑、虹色!」そう、音には色がある。
なんて美しい映像だろう、と何度も息を飲んだ。波打ち際を走るA子、列車に乗せられたピアノを見送るA子、サーカスの場面、Cの音で調律する友人の、別れ際のフレームアウト。印象的な場面はたくさんあって、そのどれもが記憶の隅で光るような気がする。

本編放送後にあった日本映画専門チャンネル独自のインタビュー佐々木昭一郎さんと「四季〜ユートピアノ〜」他の作品で主演された中尾幸世さん、佐々木監督の作品でカメラを担当された吉田秀夫さん、葛城 哲郎さんの四名)にて、その製作過程の一端をかいま見ることができて、これが70年代の当時にどれだけ画期的な作品であったのか、多少ではあるが伺い知ることができたように思う。例えばタルコフスキーや現在ならダルデンヌ兄弟、また日本では是枝監督など、佐々木監督の作品イメージは多くの監督のそれと比較することも出来る。でもこの作品にある生々しさは、今までに感じたことのないもののように思う。中尾幸世さんの存在、そして言葉、周囲の人々との関わりのすべてが、私がいる現実とは違う/でも繋がっている場所での、ドキュメントのように思えるのだ。例えば小説を読んで、その物語が私の頭のなかに、ある、ときのような。
そしてカメラ。インタビューの場面でも使われていたけれど、主人公に寄り添い、走り、見つめるその視線は、まるで物語を読んでいる時に思い描く風景のようだわと思った。
まだ何回か放送されるみたいなので、ビデオにとっておきたい。
この作品を見るきっかけを下さったIMAOさん(id:IMAO:20051223)に感謝します。