「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」

昨年は夏休み中にシリーズを予習して『フォースの覚醒』公開に臨み、結果とても楽しく見ることができたのですが、それもこのビッグウェーブに乗りたいという気持ちのなせる業であり、実は私はスターウォーズシリーズに対してそれほど思い入れがあるわけではない。
なので今回の『ローグ・ワン』はスピンオフ的な内容であるときいて、中々腰が上がらずにいました。

けれど結果的にこの『ローグ・ワン』はとても楽しかった。むしろ個人的には今までみたスターウォーズシリーズで一番好きかもしれない、とすら思いました。

『ローグ・ワン』は、『新たなる希望』のオープニングロールにあるお話。
デススターの設計者として父を奪われた娘ジンが、成長して父の思いに応え、その設計図を盗むまでのお話です。
最初は巻き込まれる形で同盟軍に関わることになった主人公が、やがて仲間を得て目的を達成するのですが、
とにかく後半に描かれる、スターウォーズの物語の礎となった人々の戦いが本当に熱かった。

私は孤軍奮闘している主人公に仲間ができる、という場面に本当に弱いのですが、命令に従順であるがゆえにジンを裏切るような行動をとっていたキャシアンが初めて自分の「意志」を優先する場面には本当にぐっときてしまいました。
見に行ったのは仕事初めの週末で、たった2日しか働いてないのにやたら疲れたな……なんて思っていた日だっただけに、なんか頑張って生きるぞ、という気持ちになりました(素直)。

しかし何よりもぐっときたのはジェダで主人公と出会う、チアルートとベイズのコンビです。
チアルートはフォースを信じ、ジェダイに憧れる盲目の戦士。だけど誰よりも強く、戦う姿は舞っているかのように美しい。
そして何かと言うとフォースに祈るチアルートに対し、相方のベイスは基本茶化すような態度をとっているのですが、その軽口が最後にベイスが口にする祈りの言葉に繋がるという展開は猛烈にブロマンスだな……と思いました。
「気をつけろよ」と声をかけるベイスに、「お前がいるから大丈夫だろ」と返すチアルートの、その背中を預ける信頼関係の描き方は、なんとなく香港映画的だなとも感じました。

彼らの戦いの結末は既にこの先の物語が描かれているため、ある程度予想がついてしまうのですが、この作品単体で見たとしても、彼らの戦いに切実さを感じることができるくらい「デススター」がひたすら恐ろしく描かれていたのもよかった。自分があそこにいたらあっという間に死にます。
それから、デススターをとめる鍵となる言葉が父と娘の思い出に繋がっている、というシークエンスにはふと『ハイペリオン』を思い出したりもしました。

本当に面白かったし大好きな作品になりましたが、しいて言えばチアルートのアクションがもっとみたかったし、私はチアルート&ベイスのスピンオフが見たいです…!

成人の日

1月9日は、近所の友人たちと毎年恒例になっている初詣に行った。目当ての寺に向かう道中、あちこちで成人式帰りと思われる晴れ着の若者をみかけ、自然と会話が成人式のことに及んだ。

私は成人式には行かなかった。中学から私立に進学したため、地元の同級生とほとんど付き合いがなかったことが理由で、その日は大学の友人たちと「新成人無料キャンペーン」をやっていた大学の沿線にある遊園地へ遊びに行ったのだった。
大学には、進学にあたって住民票を移してしまったせいで地元の成人式の招待状が届かない、という人たちがたくさんいた。
そのせいか、真冬の閑散とした遊園地内で何度も、同じ大学の別のグループと鉢合わせしたりもした。
あの日私は初めて着る緑のカーディガンを着ていて、それは思ったよりサイズが小さく、それ以降一度も着ることはなかった。なんてどうでもいいことを思い出す。

初詣を終えて、駅のホームに立ったところで、携帯にメールが来ていたことに気付いた。
見るとそれは、かつて成人の日に一緒に遊園地に行った友人からの約1年ぶりのメールで、そこには「今まで自宅でしかネットを出来なかったけれど、この度ついにスマートフォンを買いました、まだ使い方がよくわからないけれど、便利だね」ということが書かれていた。
そういえば彼女は学生時代もPHSや携帯の類を持っていなかった。それなのにどうやって連絡をとっていたのか、今ではよく思い出せない。
こうして連絡手段が発達した今も、彼女とのやり取りはいつも途絶えがちで、思い描く顔は20歳の頃のままだ。

気軽に会いたいねと言えるような距離に住んでいないことはわかっているので暫し返信に迷う。ただ丁度この日にメールが来るなんて出来すぎている気もして、成人の日のことを覚えている? と返信を送った。

年末年始日記

毎年終業日にはフロアの大掃除がある。今年は終業日までもつれ込んだ仕事のある人が少なかったせいか、大掃除にも余裕があり、個人的にも達成感のある仕事納めだったのだけど、気づくと親指の爪に亀裂が入っており、最終的にはそれを気にかけながら帰宅する羽目になった。

終業日の翌日は良い天気だった。地下鉄の改札を出て地上へと続く階段を見上げ、ああ正月だなと思ったのを覚えている。実際は年末だったわけだけど、あのように空が青く、真昼から夕暮れのような光に満ちている空気を正月のようだと感じるのは一体なぜなのだろうか。
確率的に、正月は晴れやすいという統計があることは幾度か天気予報で聴いたことがある。しかしそれは東京で見る天気予報だったし、考えてみると広島の祖父母が亡くなり、「正月に広島へ行く」というイベントが行われなくなって以降、私は関東以外で正月を過ごしたことがないのだった(母方の祖父母は関東に住んでいる)。
沖縄や北海道でも正月はこのように晴れてることが多いのだろうか。アメリカやイギリスは、中国やアフリカはどうだろう。
きっとその国ごとに「年末年始らしい天気」というものがあるのだろうし、ならば次の正月には関東の正月らしさ以外のものも見てみたいな、と思ったりした。

大晦日から実家へ帰り、元旦には甥っ子を連れて義妹が来てくれた。上の弟は昨年末からアメリカに転勤になっており、正月明けには2人もアメリカに発つため、その前に会える最後の機会になる。
2人が訪れることは前もってわかっていたのに、父が居間を散らかし放題にしていたため、31日は着いてすぐに片付けと床の雑巾がけに借り出された。しかし念入りに雑巾がけをしたかいがあった、と思えるほどに甥っ子ははげしくハイハイをしていて、本当に子どもというのは日に日に、著しく成長するものなのだなと感じた。
義妹に着物を着せて写真を撮りたい、という親のリクエストがあったため、その間、小一時間ほど甥っ子と2人で遊んでいたのだけど、私の手につかまって、ちょっと歩いてみせたりする様子に、あんよが上手という言葉をいうチャンスはここだな!と胸が熱くなったりもした。あとはひたすら缶におもちゃをいれ、さかさまにしてそれらを開放し、再び缶におもちゃをしまう遊びを2人でした。

2人が帰った後、母親がマックのポテトが食べたい、クーポンがあるから、と言い出しポテトを買って帰ったのだけど、いざ大皿にあけたところで、父親がそれを自分のテーブルに運んだのには笑ってしまった。
まだ私が学生だった頃、最寄駅にはじめて焼肉屋(牛鉄とか牛角とかそういうやつ)ができたときに、家族揃って食べに行ったことがあった。そのとき「ユッケ」(当時はメニューにあった)を注文したところ、一口食べて気に入ったのか父親がそれをそっと自分の前に移動させたということがあった。
父親にはそのような、気に入った食べ物を独占する癖がある。
それがいまだに変わっていないということに笑いつつ、父と自分は本当に食の好みが似ているなとも思った。
ポテトは半分奪い返したが、結局父はLサイズ1つくらいは一人で食べきった。胃袋が丈夫なようで何よりだと思う。

2日には下の弟に送ってもらって妹とセールに行った。道がとても混雑していて、車の中ではノロウィルスの話から脱線してずっと吐き気の話をしていて、スタンドバイミーで吐いたのは何のパイだったかという話で笑いまくった。
妹とは福袋を買いたいねと話していたのだけど、もう夕方だったからか跡形もなく、結局デパートの地下で菓子の福袋をかって2人で半分こしてそのまま帰宅した。

久しぶりに実家に連泊したのだけど、慣れない布団と慣れない風呂(私が実家を出た後にリフォームしたため)を使うことに少々疲れていたので、自宅に帰るとなんだかほっとした。
折れた爪はまだ伸びていない。
きっと数年後には「爪の折れていた正月」として思い出すのだろう正月だった。

 2016年に見た映画ベスト10!

今年は「今年ベスト!」って言いたくなる映画が本当にたくさんある年でした。昨年もそんなこと言ってた気がするけど、今年は特に、上半期から、今年ベスト!って叫びたくなる作品が多かった。

→ちなみに上半期のベスト10はこんな感じだった

それでは今年も「個人的に好きだったベスト10」を書いておきたいなと思います!

10位「HiGH&LOW THE MOVIE」&「HiGH&LOW THE RED RAIN」

2本まとめてで申し訳ないですが、ハイローのヒットもまた、2016年を代表する出来事の一つだったと思います。
とにかく「俺らの考える最高のかっこよさ」を実現するために金に糸目はつけないぜといった勢いのある映画だったし、THE MOVIEについては観客がどの「キャラ」を推してもいい、という余地のある作りが、アイドル映画としても楽しかった。
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第9位「何者」

朝井リョウさんの原作がとても面白かったので、映画化されるときいてすごく楽しみにしていた作品。
小説ならではの仕掛けがある物語なので、それを映画化したときに生じる「前半のだるさ」は否めないところがあったけれど、同時に実写でやるからこその演出もあり、結果的には大満足でした。
何より印象的だったのは、伊賀大介さんによる衣装の演出です。

伊賀:佐藤健くんの演じる主人公の服装として、『それ、いい!』と思って。一つのブランドに執着するのって、一見小綺麗に見えるけど、逆にダサいじゃないですか。
http://realsound.jp/movie/2016/11/post-3153.html

ほんとファッションに対する態度までキャラクター作りに関わるんだなということを改めて感じるインタビューだったし、なによりあの佐藤健さんが「かっこよくなくみえる」のがすごかった。
それから今年は「溺れるナイフ」を見逃したのがほんと悔しいんですけど、この「何者」「ディストラクションベイビーズ」など、菅田将暉さんの猛烈なかっこよさ、視線の色っぽさにやられた年でもありました。
原作の感想
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8位「ズートピア

差別と偏見、ということに対するディズニーの覚悟を感じる作品、という意味で、これも2016年を象徴するような作品だったと思う。
ただ、個人的にはニックかっこいい、でほとんど脳内が埋まっていました。
最近みた映画3本 - イチニクス遊覧日記

7位「怒り」

原作を読んでいなかったこともあり、ラストまでどういう結末になるのかわからずに見ていたからこそ、「誰が犯人なのか」を疑いながら見ていた自分の視線に打ちのめされる映画だった。
特に私はミスリードにまんまとひっかかったこともあり、あの人を疑ってしまったということが本当にショックで、そのことが今も忘れられない。
そのしかけが実現できたのはこの豪華キャストだからこそだと思うし、メインキャストは皆素晴らしかったと思います。

6位「ちはやふる」上下

こちらも2本まとめてですが、本当に楽しい青春映画だった。
原作もアニメもすばらしかっただけに、実写への期待値も高かかったのですが、とにかく本気になった瞬間のちはやの眼が最高だったのと、競技かるたの迫力がきちんと描かれていたのがよかったです。
下の句は松岡茉優さん演じる若宮詩暢が素晴らしかった。
ちはやふるには恋愛も描かれるけど、真ん中にあるのはPerfumeの主題歌「FLASH」にもあるように「恋ともぜんぜん 違うエモーション」なのがいい。
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5位「オデッセイ」

原作も読んで公開を楽しみにしていた作品。
絶望的な状況にあってもユーモアと創意工夫を忘れないマーク・ワトニーさんという主人公がひたすら魅力的だった。誰かのために生きる、という物語ではなく、生きることを諦めない、というシンプルな動機で動く物語というのも新鮮で、とても心強く感じた。
あと見終わった瞬間に「頭がよくなりたい!」と思いましたね。
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4位「シングストリート 未来へのうた」

ここからは全部今年1位にしたいくらい好きな作品。
青春ものとしてもバンドものとしても本当にキラキラしていたのだけど、個人的には兄弟ものとしての側面が本当にたまらなかった。
あの体育館での妄想MVシーンは忘れられない名シーンだったと思います。
それからサントラも本当に素晴らしかった!
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3位「この世界の片隅に

原作がとても好きだったので、原作を読んだときに、ここが好きだと思った部分を丁寧に描いてくれたアニメーションだったのがとにかく嬉しかった。
自分が生まれるよりずっと前の話だけど、映画の中には自分のいる場所もあるような気がする映画でした。
また父方の田舎が広島ということもあり、珍しく親にすすめた映画でした。
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2位「永い言い訳

万人におすすめするかはともかく、自分にとってどうしようもなく大事な映画というのはあって、それが今年はこの「永い言い訳」だったと思います。
映画を見た後に原作も読んだのですが、幸夫が幸せを知ることが、妻を忘れることとイコールでないことは救いでもあったけれど、同時に喪失の始まりでもある、ということに思い至って、たまらない気持ちになりました。
子どもたちの演技も本当によかったな。折に触れて見返したい作品です。
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1位「シン・ゴジラ

最高でした。
ゴジラシリーズが好きなこともあるけれど、私の好きな適材適所ものであったこと、その派生でキャラクターの背景などを想像することもとても楽しくて、夏はほんとシン・ゴジラ一色だったような気がします。結局3回見に行ったけど、毎回新たな発見があるのも楽しかった…。
「オデッセイ」におけるワトニーさんが絶望的な状況にただ泣き叫んだりはしない、唐突に愛に目覚めたりはしない、ということと、このシン・ゴジラで描かれる登場人物たちの振る舞いは近いものがあるような気がする。
思わず後日談二次創作をしたりした*1
のも楽しかった思い出。
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というわけで今年のベスト10でした!

ハイローのところにも書きましたが、今年は映画の見方が変わるような作品が多かったのも面白かった。
その最大のものは「KING OF PRISM by PrettyRhythm」から広まったと思われる「応援上映」だと思います。正直、キンプリは見るタイミングが遅すぎて、もう応援の形が仕上がってる状態で見に行ったので若干ついていけない感もありましたが、「これ応援上映で見たら楽しそうだな」という思考回路が生まれたのが2016年のトピックではないでしょうか。
それから「君の名は。」の大ヒットもすごかった。正直自分にはそれほどぐっとこなかったのですが、本当に、普段アニメを見ないような人まで見に行ってるのがすごいと思ったし、そんなことっていままでジブリ&ディズニー以外で起こりえなかったよね、という、その壁を破った作品が現れたということが嬉しい。
2017年もとても楽しみです!

昨年のベスト
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 「いまさら翼といわれても」/米澤穂信

6年5か月ぶりの〈古典部〉シリーズ新作。
そもそも私はアニメ「氷菓」がきっかけで米澤穂信さんの作品に興味を持ち、アニメを見終わってから氷菓の原作である〈古典部〉シリーズと、同じく高校生が主人公の〈小市民〉シリーズを読んで夢中になったので、つまりこの『いまさら翼といわれても』が、初めてリアルタイム(?)で読める〈古典部〉新作ということになります。

いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても

この本には、奉太郎視点が4本、摩耶花視点が2本で計6本の短編が収録されている。
そのうち1本を読み始めたとき、不思議なことに「この風景には見覚えがある」と感じた。メインキャラクターだけでなく、教壇に立つ先生の様子にまで既視感がある。出たばかりの本でそんなことってあるのかな? と奥付をみると、その1本だけ2008年に書かれたものだとわかった。
つまりその作品だけ、単行本に収録されるより前にアニメ「氷菓」でアニメ化されていたのだ。
――なるほどね、と解決するまで数分程度のことだったのだけど、そのような「違和感」を解決することにわくわくする感覚は、高校生を主人公に描かれる〈古典部〉と〈小市民〉シリーズの魅力にも通じているように思った。

もちろん、その私の違和感は謎でも何でもない、ただの記憶の劣化だ。
でも「まあいいか」で見過ごしてしまいそうな出来事という意味ではこのシリーズで描かれる謎と似ていて、
そのような「まあいいか」に立ち止まり、その背景を紐解いていく過程に登場人物たちの思春期ならではの心情が絡むというところが、〈古典部〉と〈小市民〉シリーズの、青春小説としても推理小説としても、魅力的なポイントだと思う。

特に好きだったのは摩耶花視点で描かれる、『クドリャフカの順番』の後日談ともいえる「わたしたちの伝説の一冊」。
漫画家を目指す摩耶花が漫画部の内輪もめに巻き込まれている最中に起こるある出来事の謎を解く話なのだけど、

友達も仲間も振り捨てて、本当に頼りになるのかわからない自分の才能に仕えるには、とてもこわいです。
p215

この台詞が出てくる箇所の一連のやりとりは、何かを好きで、続けていて、でも好きだけでは終わりたくない、という岐路に立ったことのある人にはきっと響く場面だと感じた。
学校という社会は小さい。でもその中にいる間はその小ささに気付かない。
けれどこのやりとりは「見ててくれる人はいた」という希望でもある。そのことにいつか摩耶花は気づくのだろう。

そのほかの短編では、特に奉太郎とえるの距離感が縮まっていることが印象的で、「翼」の話も含め、まだまだこのシリーズの続きを読んでいたい、と思う1冊でした。面白かった。