町/寺

寺で夏に遊ぶ場合、断然人気だったのは水風船キャッチだ。
水を入れた水風船を、寺の屋根になげ、落ちてくるのをキャッチする。割れないように注意して、一番ながくもった水風船が勝ち。
これはやる方も面白かったけど、色とりどりの水風船がぼよんぼよんと屋根をつたって、かわらのデコボコではねたり割れたりする様子を眺めているだけでも楽しかった。ときどき、わざとヘディングで割って水をかぶるっていうのが定番で、それは五分狩りのカトウくんが、一番うまかった。「プロい」っていわれてた。私はにぶかったので、うまく頭にあたったことすらない(もちろん、ドッヂボールのときはよくあたった)。
キャッチしそこねた水風船が石畳で割れるので、ビーサンで集合するのもまた定番だった。足りなくなった水風船は近所の文房具屋で調達。ついでにドラキュラアイスかって舌が黒くなったとか大騒ぎして、水風船でサッカーしようとしてビーサンを飛ばしたり、ふざけてひろって投げて、屋根のうえにひっかかったり。寺の人にとってはさぞかし迷惑な話だっただろう。
でもそれは男子と女子がわりと仲良かった日の話で、またあるときには寺を舞台にけっとうが行われたりもした。私はやっぱりにぶかったので、木で見張ってる役になって、役立つどころか落ちて背中をすりむいたりした。折れた枝で、けっこうざっくりいったのに、秘密にしていておこられた。痛いのを我慢するのは得意で、注射だって歯医者だって一度も泣いたことがない、というのは密かな自慢だった。
寺では夏祭りも行われていたし、大晦日には除夜の鐘をならした。はじめて自転車に乗れたのも寺でだった。小学生のころ、私たちは放課後のほとんどを寺で遊んですごした。そういっても過言ではないはずだ。
数年前、寺は火事になって、本堂が焼けてしまった。本堂の立て替えと同時に境内の公園はなくなり、夏祭りも行われなくなった。今、みんなはどこで遊んでるのだろうか。そんなことを思いながら、毎朝高い塀の前を通る。