秋晴れ

直行で打ち合わせが入っていたので、いつもより少し遅めに家をでた。
久しぶりの晴天に、ぐっと背筋をのばしたくなる。このくらいの天気が、ずっと続けばいいのにな。なんて思いながら、手みやげなど買ってバスを待つ。
初めて乗る路線だったので、念のため、運賃を払う際に、「○○高校前にいきますか」と聞いた。しかし運転手さんは首を傾げる。「A会館に行きたいんですけど…」つけたしてみると、「ああ、じゃあ●でおりて下さい」と、聞いたことのないバス停の名をいった。
出る前にHPで降りるバス停の名前を確認してきたんだけどな。と、腑に落ちないまま座席に座り、そわそわしながらアナウンスに耳をすます。まあ、もし間違っても、まだ時間はあるし、道は誰かにたずねればいいだろう。少し迷ったが、いわれた通り、●で降りた。
しかしバス停のそばに人の姿はなく、一緒にバスを降りた男性は、いつの間にか電話に応対していた。さてどうしようか。思いあぐねて立ち止まっていると、運転手さんとのやりとりが聞こえていたのだろう、その男性が、電話を片耳に押し当てたまま、「A会館なら、こっちいって、左ですよ」と教えてくれた。
なんて親切な人なのだろう。電話中の人に声をかけるのも気が引けたので、深くお辞儀する。顔は真顔で電話先とのやりとりを続けつつ、さわやかに手を挙げ、彼は私と逆方向へと去っていった。
なんだかうれしくなって、足取りも軽く目的地へ向かう。A会館の脇を入って、目当ての場所を見つける。その道中、あちこちに、きらきらと光る折り紙のかけらのようなものが落ちていた。出迎えてくれたひとにそのことを伝えると、近くの学校で文化祭があったのだという。「青春よね」「青春ですね」
大きく膨らんだカーテンを押さえ込むように、窓を閉じる。その背の向こうには隣にある学校のグラウンドが見えた。よかったら召し上がってください、と手みやげのお菓子を渡す。すると、わたしも一緒に食べようと思って、ケーキ買ってきちゃったの。とロールケーキをきってくださった。外は晴れ、手もとにはケーキ、打ち合わせも和やかに進み、なんだかとても楽しかった。
会社に戻る前に、もう少しだけ、と思い、次のバス停まで歩いていくことにする。いい気持ちを転がすみたいにして、歩く。ついたバス停は○○中学校前、だった。なんのことはない、私が高校前と中学校前を間違えていたのだ。なーんだ、と思う。それから得したなあと、思った。