ハイペリオンの没落/ダン・シモンズ

ハイペリオンの没落〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ハイペリオンの没落〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

前作「ハイペリオン*1を読み終えてすぐに没落を読み始め、ずいぶん前に読み終わったのですが、なんかもうあまりにすごすぎて感想をかけないままでした。
この物語について書くには、私はあまりにSFについて知らなすぎるし、しかし知っていたらもっとこう、いろいろ言いたくなるだろうなという片鱗が見えるのが悔しい。
あとがきにもあるように、『ハイペリオン』シリーズには、「ハリウッド製SF大作群をあらゆる面で遥かに凌駕する」といってしまいたくなる迫力がある。その鮮明な言葉は非常に映像的なのにもかかわらず、言葉だからこそ、この空間の質量までも描けるように思う。その世界設定はSF物語定番のものだったとしても、それをここまで近く描くことができるなんて、作者の中ではイメージが触れられるくらい近くにあるのではないかと思ってしまう。

特に印象的だったのは、「テクノコアの管理する世界」という設定そのものだ。そして転位ゲート。SF特有のモチーフとしてよく使われる瞬間移動の装置とでもいえばいいのだろうか。その門から門の間のことを、ここまで具体的(?)にイメージできるというのはとても新鮮な体験だった。
読みながら、ここにいる私と、向こう側から出る私が同一の存在である保証はないんだよなぁなんてことを考えていたんだけど、それも作者の手の平の上というか、まさかそこに物語の焦点があたっていくとは思わなくて興奮した。*2
それから、舞台設定だけでなく、『ハイペリオン』はキャラクターの造形も魅力的でした。
没落では、『ハイペリオン』の中に登場したキーツのサイブリッド第二人格が没落のおもな視点のひとつとなるのですが、サイブリッドである/オリジナルではない、ということと、物語全体のモチーフがだんだんとクロスしていく展開がすごい。
それから『ハイペリオン』でも特に印象的だった、マリーン症にかかり時間をさかのぼっていく娘、レイチェルとその父親ソルの言葉を介した別れと出会いも、ついうっかり涙腺がゆるむようなお話でした。SFにはドラマが似合うな。
ほんといくら説明しようとしてもピントのぼけたことしかいえないのが残念ですが、この圧倒的な「名作」をやっと読むことができてとても満足です!
でも読み終えてすぐに、次はイーガンの短編みたいなのが読みたい…と思ってしまったのはたぶん単純に好みの問題だと思う…。
ハイペリオンの没落〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ハイペリオンの没落〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

*1:http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20081018/p2

*2:下巻p279,354 のあたり