「チャイルド44」/トム・ロブスミス

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

前評判にかなり期待して読んだのですが、とても面白かったです。特に上巻いっぱいかけて張り詰めたものが一気にはじけるような下巻の展開はほんとうにすばらしかった。
物語の舞台はスターリン体制下のソ連。主人公のレオは国家保安省の有能な捜査官として働きながら、やがて国家の抱える闇を目の当たりにすることになる。
ささいなミスが冤罪を呼び、一度疑われたら最後、取り返しのつかない監視社会の描写は圧倒的で、上巻を読んでいる間中、頭の中に暗雲がたちこめているようだった。しかし決定的な「転」の後はスピーディな文体に突き動かされるようにラストまで読むことができた。
物語には「ある事件」が描かれているのだけれど、それがこの本の主題ではないと思う。むしろそれは八方塞にも思える社会の描写のひとつであって、この物語の魅力はあくまでも社会に立ち向かう人々の描写にあると思う。特に、国家に忠実であったレオと、その妻となることをえらんだ、ライーサとの駆け引きは印象に残った。
作者はこれがデビュー作で、しかもこの「チャイルド44」ははリドリー・スコット監督による映画化が決まっているとのこと。今後の作品にも映画にも期待したいと思います。
チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)