少年と自転車

監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
ダルデンヌ兄弟の新作。うっかりしてて遅くなってしまいましたが、ぎりぎり見に行くことができました。

ダルデンヌ兄弟といえば、手持ちカメラで主人公の背中をひたすら追うような撮り方が印象的な作品が多いけれど、この「少年と自転車」は、自らの足や自転車で疾走する彼の顔を、横から撮影し続ける場面が繰り返し登場するのが印象的な映画でした。カメラで登場人物を待ち構えることを避けつつ、背中を追うのでもなく隣に寄り添うような映画だったと思う。いつものことながら、ほとんどBGMはないのに、少年のつんのめるようなスピードとともに、あっという間の1時間半だった。

映画は児童養護施設から、主人公の少年シリルが脱走するところからはじまる。彼は父親(育児放棄して引っ越している)がいなくなった元我が家で、自分の「自転車」を探すのだが、結局それは見つからなかった。
しかし後日、脱走の途中で出会った女性(サマンサ)が彼の自転車見つけてきてくれ、シリルの「お願い」によって彼女は彼の週末だけの里親を引き受けることになる。シリルにとっての「自転車」と「サマンサ」はどちらも彼の世界を広げてくれる存在なのだと思う。

それにしてもこのシリルはとにかく自然だった。子どもに触れるのってこわいことなんだよなということを思い出したし、彼の、大人と関わるぎりぎりの間合いが計れない感じとか、1度でわかるはずのことを何度か繰り返して気づくところとか、でも自分が「気づいた」ということはわかっていないところとか。
大人と子どもでは、見えている世界というか、考えの及ぶ時間の範囲が異なる。その視界の高低に見ていてはらはらするけれど、幾度もぎりぎりの選択をせまられるサマンサが、ああいった回答を選ぶことができたのは、行動や発言の前に呼吸をおくことを知っているからなのだと思う。
ラスト数分の展開で、いつでも自分と相手の立場が入れ替わる可能性があるということを、見ているこちら側に提示するのもよかった。シリルのこれからを祈るような気持ちのまま映画を見終え、今もまだ走る彼の横顔を、息をひそめて見守っているような気持ちでいる。