「愛は負けるが親切は勝つ」

昨年末、毎年今年の映画を話す会をやってる友人たちと「次はエブエブで会おう」という約束をしていたのが叶って、公開した週末に一緒に観に行くことができた。
3人一緒に映画をみるのはなんと「エターナルズ」ぶりで、すごく昔のことのようなのに、あれもすでにコロナ禍だったんだと思うと時空が歪んでいるような気分になる。
さらに、この日は友人がバルトに予約をとってくれたんだけど、私が新宿で映画を見るのはなんと3年ぶりだった。
コロナ禍前は新宿バルト9や新宿TOHOは行きつけの映画館だった。仕事帰りに寄ることも割とあった。
しかし、この3年で都心から足が遠のいたこと、さらには引っ越してからは立川方面を向いて生活することが増えた(なにしろ映画館がたくさんある)こと、そして文鳥を飼い始めたのであまり夜に出歩かなくなったこと(文鳥の安眠のために出歩くのであればそれなりの準備がある)で、すっかり新宿から足が遠のいてしまったのだ。

それにしても3年ぶりってすごい。
映画館に向かう間も、見知らぬ建物があるぞとか、らんぶるまだあったよかったとか、あの店がなくなったのってこの3年のことなんだろうか…? なんてきょろきょろしながら歩いてしまった。
そして、相変わらずあって安心したもののひとつがバルトの横にある「追分だんご本舗」だ。しかも繁盛している。昼食を食べ損ねていたのでそこで団子を買って、映画の前に食べたけどすごくおいしかった。特に醤油七味。

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」はとても面白かった。
制作陣が楽しんで作ってることが伝わってくる作品で、刺さる人には刺さるタイプである一方、アカデミー賞にノミネートされてるのはちょっと意外で、嬉しい誤算と言いたくなるような映画だと感じた。

なんて真っ先に賞レースのことを考えてしまったのは、公開までこの映画の評判を楽しみに見てきたからでもある。
楽しみにしていた理由にはいろんな側面があり、まずはミシェル・ヨーが主役であること、60代のアジア系女性が主役の作品であること、というポイントがもちろん大きい。
それに日常系のマルチバースというのも好きな題材だ。見ながら「きっと監督はマインドゲームが好きだな」と思い、検索したらちゃんと触れているインタビューがでてきて嬉しくなったりもした。


cinemore.jp


そんな中で、今回私がこの映画を楽しみにしていた理由のトップにはキー・ホイ・クァンの名前があった。
私の小学生時代はとにかくグーニーズが流行っていて、レンタルビデオ屋で何回も借りたし夏休みには従兄弟の家で、二段ベッドの周辺にあの目玉焼き機を作ろうとしたりもした(できなかった)。
そして私はデータのファンになりキー・ホイ・クァンの名前を覚えた。同時期に「 バック・トゥ・ザ・フューチャー」も流行っていて、小学生時代の私のアイドルといえばマイケル・J・フォックスキー・ホイ・クァンだったし、ロードショーかスクリーンのファンレターを書いてみよう特集をみながらファンレターを書いたりもした。
少なくとも中学生の頃までは、好きな芸能人の名前を聞かれたらこの2人の名前をあげていたと思う。

それなのに、私は彼が表舞台から遠ざかっていることを、つい最近まで意識していなかった。
エブエブの公開に合わせて読むことができた様々なインタビューを見て、この役が彼にとってどんなに特別なものなのかを今更ながらに痛感して、
映画のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)が期待以上に素晴らしいことに随所で涙してしまった。

世界には様々な可能性がある一方、生きることができるのは選んだ今だけであるいう事実は、時に残酷でもある。
でもそんな中で、すべてをひっくるめるような「優しくしようよ」と言うウェイモンド(キー・ホイ・クァン)の言葉で*1
自分の中のキー・ホイ・クァンにまつわる様々な思い出も(薄情なファンであるという思いも)バッと蘇って祝福されたような、そんな気持ちになりました。

そして、アカデミー賞当日は仕事しながらニュースをチェックしてちょっと泣いてしまった。

これからの活躍を楽しみにしています。

映画には一緒に観た3者3様のエモががあり、そのせいか見終わったら皆猛烈な空腹に襲われていた。
予約していたレストランに移動後、食事をしながらエブエブをはじめとして最近見た様々な映画の話をする。見終わってすぐに感想を話せるのが久しぶりすぎて、五臓六腑に染み渡る嬉しさだった。
今後この映画のことを思い出すたびきっと、この1日に紐づいた様々な嬉しさを思い出すだろう。


ところでヴォネガットといえば「ジェイルバード」にも出てくる「love may fail, but courtesy will prevail(愛は負けるが、親切は勝つ)」も、エブエブのテーマと通じるし、今改めて唱えたい言葉のような気がした。
「愛は失敗するが、礼儀は残る」というような意味と捉えると、私が好きなスタージョン「人間以上」の「品性とは服従よりも信頼を求めるおきて」であるという言葉にも通じる。
…なんてことを考えたりもしているので今年はヴォネガット読み返しをやりたいな。

*1:監督は「猫のゆりかご」映画化を企画していたことがあることからも、ヴォネガットの「be kind」が元であろうとのこと