「どこから行っても遠い町」/川上弘美

どこから行っても遠い町

どこから行っても遠い町

どこかにある町を舞台に描かれる連作短篇集。
健康診断の待ち時間に読みはじめたのだけど、1話終わるごとにレントゲンや聴覚検査、採血やらに立ち、また待合室に戻って本を開くというのはなかなか、この本を読むにはちょうどよかったような気がする。周りに人がたくさんいるけど、知らない人ばかりで、ざわざわしているようで静かで、少し緊張しているのがめんどくさい感じ。
でも、そうやって同じ画面に映る人すべてに、物語があるということを描いた短篇集だったと思います。ある物語では背景に写り込むだけのひとが、次のお話では全く異なる顔を見せる。
ところどころ、ちょっと物語からはみ出してしまうような設定もあった気がするけど、それは描かれている人物が老若男女幅広いために、好感を持つ人もいれば苦手な人もいる、ということのようにも思う。
健康診断の後、遅い昼食を食べながら読み終えた。道に迷った後、ようやく見知った場所にでたようなほっとした気分で今に戻った。

おれは、生きてきたというそのことだけで、つねに事を決めていたのだ。決定をする、というわかりやすいところだけでなく、ただ誰かと知りあうだけで、ただ誰かとすれちがうだけで、ただそこにいるだけで、ただ息をするだけで、何かを決めつづけてきたのだ。/p319

例えばこの一言が、ただそういうものだとして置かれているところとか、川上弘美さんの小説は読んでいてちょっとこわいと思うことが多い。でも定期的に読みたくなる。