ベーコンライフのすすめ

昨年末「今年買ってよかったもの」というタグが流行っていた。
いいねをもらった数だけ買ってよかったものをあげるというタグだったのに、他に何があったっけ、なんて考えているうちに年を越してしまい、続きはまた年末、という雰囲気になってしまったのだけど、

挙げ忘れていたもののなかに、やはりこれだけは!というものがあり、往生際悪くここに書いておくことにした。
それは成城石井の「自家製ベーコン」である。
www.seijoishii.com
きっかけはカリカリベーコンだった。
私は、いわゆるホテルの朝食に出されるような「カリカリしたベーコン」が大好きだ。それは私のイメージする幸福な朝食を具現化した存在と言っても過言ではない。
しかしスーパーで買うベーコンというのはどうもカリカリしにくい(ものが多い)。
水を入れて焼くと良いとかいう裏技めいたものもあるけれど、おそらく脂身の多いベーコンの方がカリカリしやすい…などという理由はあるのだと思う。
しかし成城石井のベーコンは違う、理想的なカリカリしやすさなのだというのをtwitterで見て買ってみたのだけれど、これが本当においしかったのだ。

焼けばあっという間に、確実にカリカリする。その寸前の、カリカリしたところもあるし、そうでないところもあるくらいの状態におかれたベーコンの刹那を半熟の黄身に絡めて食べるのは最高に幸せだ。
ここ数年、目玉焼きなんて作ろうと思ったことがないのに(目玉焼きほど朝食にしか食べないメニューも少ないのではないだろうか)ベーコンが尽きるまで目玉焼きを連続で食してしまったほどだ。

そして幾度目かのお代わりベーコンをしに成城石井に赴いてふと、その隣にブロックベーコンもあることに気がついた。
冬だし、ポトフを作るのもいいかもしれない。そう思いつき、1本1000円超(100gで大体480円くらい)という、なかなか贅沢な買い物をした。よく考えたら肉でもそんな金額のものはあんまり買わないけれど、これは確実にその金額以上の価値があったと思う。

白菜1/4をざく切りにし鍋に敷き詰めてじゃがいもにんじんきのこ、そしてブロックベーコン半分とオニオンスープ*1コンソメ代わりに入れ、少しだけ水を加えて15分程度煮込む。
ポトフにおけるブロックベーコンの役割はとにかく出汁だ。こんな雑な作り方でも、ベーコンがおいしいというだけで上等な味がする。最後にちょっといいコショウを振ったらさらに完璧だ。
野菜もたくさんとれるし、おいしいベーコンのおかげで特別感もあるしで、入れる野菜をマイナーチェンジしたり、トマト缶やレモン鍋の素を入れたりして味のパターンを変えながら、12月末から1月にかけては毎晩のようにポトフ(ポトフなのか?)を食べていた気がする。

ひとつの食材にこんなにハマると言うのもなかなかないことで、まだ全然飽きる気配もないのだけれど、ポトフはやはり冬の食べ物だ。もうしばらくブロックベーコンライフを楽しみながら、春夏のベーコン暮らしの計画を立てたいなと思っている。

2019年1月の読書

昨年末に、2019年に新刊が発売されるという告知*1があった「十二国記」シリーズを私は読んだことがなかったのだけれど、告知の後のTLの様子を見ていて羨ましくなったため、とりあえず刊行順で「魔性の子」から「東の海神」までを購入して読み始めた。
それが暮れのことで、「魔性の子」を読み終えてすぐ、できたばかりのアップリンク吉祥寺で「牯嶺街少年殺人事件」を見た。
どちらも、「特別」な存在と接することで、自分も「特別」なのだと思っていた主人公が、自分はその世界には行けないことを知る物語という点で、重なるところがあるような気がした。

正月に実家に帰省する際には「月の影 影の海」を持って行ったのだけれど、暇であっという間に読み終えてしまいもう1冊持って来ればよかった、と思ったところから止まらなくなり、1月の6日には「東の海神 西の滄海」にたどり着いていた。つまりだいたい1日1冊のペースである。本を読むのが遅い方な自分にとってはあまりないペースだった。
続きを注文して、届くまでの間には「風が強く吹いている」を読んだ。
「風が強く吹いている」は現在放送中のアニメ版がとても面白かったためようやく手に取ったのだけれど、読み始めた瞬間に、なぜもっと早く読まなかったんだろうと思うほど好きな小説だった。

「その瞬間、清瀬は悟った。もしもこの世に、幸福や美や善なるものがあるとしたら。俺にとってそれは、この男の形をしているのだ。」

冒頭も冒頭の場面だが、この一文を読んだ時に確実に好きだと思ったし、実際とても面白かった。
アニメ版と異なる点も多々あるのだけれど、原作を読んで改めて、アニメはアニメで2クールで展開するための、適切な補足がされていると感じた。調べてみれば脚本の喜安浩平さんは「桐島、部活やめるってよ」や「幕が上がる」の脚本を手がけていた方で、今後この方の作品にも注目していこう、と心に決めた。

その後「風の万里 黎明の空」から「丕緒の鳥」までは本当にあっという間だった。感想をTwitterに書きながら読んでいたのだけれど、「図南の翼」で「利広は麒麟なのでは?」「でも血が嫌いなはずだからもしかして敵なのか?」なんて的外れなことを書いていたのに突っ込まないでいてくれた方々は本当に優しいと思う。
1月なのでいくつか新年会もあり、そのたびに「十二国記」の面白さについてひとしきり話さないと気が済まない状態になっており、そんな私の話を聞いてくれた友人たちもまた優しいと思う。
正月休みは何をしていたか、という話題で友人が「一般参賀に行った」と話し出した際、そこから陽子が赤楽と元号を定めたことへのエモさを語る流れにもってったのは、我ながらちょっと無理やりだったなと反省している。

十二国記は、架空の国の物語でありながら時折、鮮明にその世界が見えるような気がしてしまう物語だった。作者には一体どこまでが見えているのだろうと何度でも感動するし、その目を借りてもっといろんな話を聞かせてほしい、と思う。
自分が海客として十二国記の世界に行くとしたら、と想像してみたりもするけれど、その度に「魔性の子」に描かれた「行けない人」の視点を思い出してしまうという構図も、とても気に入った。
なんにせよ、新刊が出るというこのタイミングに間に合うことができたのは本当に幸せなことだ。

そんなわけで2019年の1月は自分比でかなり多くの本を読むことができた。
この調子で、今年はたくさん本を読む年にしたいな、と思う。特にまだ読んでいなかった「名作」に手を出していきたいと思っている。

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

牯嶺街少年殺人事件 [Blu-ray]

牯嶺街少年殺人事件 [Blu-ray]

2018年に見た映画ベスト10!

先日、定期的に映画を見る会をしている友人2人と毎年恒例の「今年のベスト映画」を発表しあう会をやりました。私が自信満々で「これは3人ともかぶるでしょう!」なんて思っていた映画が全く被らなかったり、私以外の2人が被っている映画を見ていなくて悔しかったりしつつ、1作発表して行くごとにあれこれ感想を話すのがとても楽しくて、映画って本当にいいものですね、と思ったりしました。
映画を見る楽しさの一つにそうやって他の人の感想を聞くことがあるけれど、それと同時に年間ベストを振り返りながら、今年の自分が何にグッときていたのかとか、自分の好みの傾向だとかを考えてみるのもまた好きな作業だな、と思います。
今年映画館で見た新作映画はおそらく40本でしたが、その中で特にグッときたものについて考えていくと、多くは「失われたもの」についての話だったかな…と思います。

10位「ヘレディタリー/継承」

今年、というか、私が今まで見たホラー映画で一番怖かったのがこのヘレディタリーだと思う。アトロク評にもあったけれど、見ている間はこれが「作り物」であることを忘れて本当に恐怖していた。けれどやはり見終えてから思い返されるのは、中盤(時間の流れがよく思い出せないんだけど前半だったのかもしれない)にある、とある事件についてだった。取り返せない過ちを犯してしまった、その事実と向き合えない夜の長さ。
もう1回映画館で見ろって言われたら絶対嫌だけど、この映画を見たことはずっと忘れないような気がする。

9位「レディ・バード

女の子同士の友情ものとしてもよかったし、同時期に「アイ・トーニャ」「フロリダ・プロジェクト」「レディ・バード」を立て続けに見て、「ここから出ていけない状態」ということについて考えたのも思い出深い。
個人的には、年末に親に付き合って教会(親がクリスチャンなので)に行き、レディ・バードのラストシーンを思い出したりしたことでベストに入れたくなりました。

8位「スリー・ビルボード

善でもなく悪とも言い切れない主人公の描かれ方がとても好きだった。この私は絶滅すべきなのか、いやそうではない、と立ち上がる物語という意味では1位にあげる映画と重なるところもあったと思っています。

スリー・ビルボード - イチニクス遊覧日記

7位「ゴッズ・オウン・カントリー」(※DVD鑑賞)

貸していただいた英語版のDVDでの鑑賞なので、セリフの意味が全て聞き取れたわけではない…というのを加味しての順位ですが、2月に拡大公開になるとのことなので、ぜひそこで字幕付きを見たいと思っています。
最初全く応援できな買った主人公が拘泥ののちに人と関わるということを知る物語。

6位「オーシャンズ8」

最初に書いた友人たちとの会話でも話したんだけど、冒頭のデビーの万引きシーンについては割と冷めてしまったものの、見ているうちにデビーはこの8人の中では最もぶれてる人なんだなと思うようになりました。
そんな彼女が仲間たちの力を借りてでかいことをやるお話。8人それぞれの魅力をちゃんとクローズアップして、「脇役」扱いせずに描くところが最高に好きでした。

8月に見た映画 - イチニクス遊覧日記

5位「アイ・トーニャ」

トーニャ・ハーティングの事件がこんな話だったなんて知らなかった…という驚きもあったんだけど、手をつけられない「炎上」状態にありながら、それでも立ち向かうことを諦めない様を描いたあのメイクアップシーンは、今まで見た映画の中でも特に好きな場面の一つになりました。
孤立無援状態の女性を描いた話という意味では「スリー・ビルボード」とも重なるし、女性がメイクするのは立ち向かうための儀式なんですよ…というのはオーシャンズ8にも繋がるところ。

4位「君の名前で僕を呼んで

間違いなく今年一番聞いたアルバムはこの映画のサントラでした。
音楽も映像も素晴らしく美しく、繊細な感情のやり取りが画面から伝わってくるような、贅沢な映画だったと思います。
GOCが真夜中から夜明け、だとしたらCMBYNは朝から夕暮れへというイメージ。

3位「若おかみは小学生!

今年はアニメ映画をあまり見れていないんですが、これは映画館で観れて本当に良かった。失われてしまったものを抱えながら、抱えたまま生きていくために一歩踏み出すようなお話だったと思う。
「若おかみは小学生!」 - イチニクス遊覧日記

2位「ボヘミアン・ラプソディー

この映画における「失われてしまったもの」は、主人公でもあるフレディその人だ。見る人の多くはおそらく彼がどのようにして亡くなったかを知っているわけで、だからこそ、多少の事実の改変は、この映画をブライアン・メイロジャー・テイラーがどのように作りたかったかということの現れなのだと思う。
そしてQueenの音楽の素晴らしさがこの映画によって再評価(というより若い世代の人にとっては再発見、なのかもしれない)されているということが本当に素晴らしいことだなと思います。
特に良かったのはもちろんラストのライブエイドシーンなんですけど、アイドルファンとして、演者がファンをどのように見ているのか、ということを垣間見せてくれたような気がしたことにグッときたし、ラストフレディがバンドメンバーを振り返る場面を入れてくれたことが本当に嬉しかった。
ichinics.hatenadiary.com

1位「勝手にふるえてろ

公開されたのは昨年ですが、私は今年見たので今年のベストです。
本当に今年1年はこの映画について考える1年になったような気がする。漫画作品で言えば「こいいじ」や「あげくの果てのカノン」と同じく、終わったはずの初恋が追いかけてくる話であり、それが自分の中の聖域のようになってしまっている状態という意味では「スリー・ビルボード」とも重なるところがあったと思う。
そうやって、他人から見たら取るに足らなかったり、馬鹿げていたりする感情が、その人にとっては世界を揺るがしてしまうほどの大事である、という物語にグッときた1年だった。

勝手にふるえてろ [DVD]

勝手にふるえてろ [DVD]

ichinics.hatenadiary.com

勝手にふるえてろを見て打ちのめされていた時期に、考えを整理しようと思ってあまり向き合わずにいた部分について口にしたりしたら、まんまとそれが追いかけてくるような出来事があり今年の前半は少々落ち込んだりしたこともあったのだけど、
そんな時に元気づけてくれるのがまた映画だったりもするので、物語を摂取するということは少なくとも自分の人生には必要不可欠なことだなと思った1年でした。
でも特に秋頃の映画が全然見れていないので追って追いついていきたいなと思います!
来年もたくさん映画が見れますように!

ichinics.hatenadiary.com

怖い話

例えばふと気が緩んだ瞬間に、普段はしないようなミスをする。けれど疲れているし、眠たいし、これはきっと些細なことだから、と目を逸らしているうちにいつの間にか、それは火種となって延焼を続けている。自分の預かり知らぬところで。

先日読んだ「静かに、ねぇ、静かに」に収録されていた「奥さん、犬は大丈夫だよね?」もそういった話だった。ネットショッピング依存症の女が、目を逸らし続ける話。あと1、2秒といったギリギリまで彼女は目を逸らし続け、一体どこまで逸らし続けられるのか、読んでいるこちらはハラハラして、いっそ逃げ切ってくれと願いかけたところで物語は終わる。
先日見た「ヘレディタリー/継承」というホラー映画にもそういった場面があった。ホラーは苦手なので見ている間はとにかくびっくりしたくないということに集中していたのだけれど、思い返してみると一番怖いのはあのシーンだった。とんでもないことをしでかしてしまった後、それを確認せず、とりあえず家に帰って、とりあえず布団に潜り込む長い夜。

冷静な人は、しでかした何かの気配に怯えて眠るよりも、状況に対処した方がずっといい、というかもしれない。
けれど、本当に取り返しのつかない、今自分が持っているすべてと引き換えにしても償えないものかもしれないものが突然にやってきて、すぐに冷静になどなれるのだろうか。こんなことなら普段から注意深く、誠実に、清く正しく生きるべきだった。そんなことを思ってももう遅い。

例えば、ベランダの手すりに植木鉢を置く。普段ならそんなことはしないのに、手についた泥を落とそうとして、ほんの一瞬だからとそこに置く。
鉢を片付けたら洗濯物を干して、昼食を食べたら買い物に行こう。そんなことを考えながら振り返り、そこにあったはずの植木鉢がなくなっていることに気づいたら、
すぐに向こう側をのぞくことができるだろうか。

そういった、日常の底が抜けるようなゾッとする感じは、おそらく「怖い話」の典型の一つなのだろう。
そして、自分にはどうかそんな瞬間がやってきませんようにと願うくせに、つい思い返してはゾッとするのをやめられない。
「怖い話」の魅力というのはそういうところにあるのかもしれないなと思った。

ところで、なんで今年は冬になってホラー映画がたくさん公開されているんでしょうか。
ちょっと忙しくなると盲点ができがちなので、ついつい怖いことばかり考えてしまう。
ヘレディタリーは本当に怖かったです。

静かに、ねぇ、静かに

静かに、ねぇ、静かに

タイムマシン

「匂いには記憶がひも付きやすい」と聞いたことがあるけれど、音楽もまた、そのような記憶再生機であると思う。
数年前、PCの故障でそれまでに取り込んでいた音楽データが取り出せなくなって以降、iPhoneで音楽を聞くにはもっぱらAppleMusicを使っている。使ってみれば思いついたときに、好きなアルバムをダウンロードして聞けるのでとても便利だ。

昨晩、眠るまえにふと思いついてRadioheadのアルバムを数枚ダウンロードした。どれも学生時代から長く聞き込んだアルバムだけれど、古いアルバムについてはここ数年聴いていなかった。
それはおそらく、そこに紐づいている記憶をあまり再生したくない気分だったからだと思う。そしてもう、それも薄れたかと思っていた。
けれど今朝、久しぶりに「KID A」を聞きながら、思い出された記憶はいまも鮮明だった。

表題曲「KID A」のイントロを聴いたのは、当時バイトしていたCDショップの階段を登ろうとしていたときだった。瞬間、きっとこのアルバムで一番好きな曲になるだろうと思った。皮膚の下に直接触れてくるみたいな音が気持ちよくて、1階でもかけているのに2階でもそのアルバムを再生した。
そして数年後のサマソニ、夜のマリンスタジアムで、その曲が演奏されるのをきいた。打ち込みだし、ボーカルにはエフェクトがかかりまくっているしでライブで演奏されるとは思っていなかったからすごく嬉しくて、会場で出会った、イギリスからきたという女の子の隣で「私この曲好きなんだ」と言おうか迷った。脳内で英訳まではした。けれど演奏を聞き逃したくはないだろうと思って、青い光に照らされた横顔を見るにとどめた。
後日、テレビでその模様が放送されたときは、妹の部屋で見ていたのも覚えている。「これが私の一番好きなバンド」と妹に説明したことも。

毎朝、職場最寄駅からの徒歩5分は、今一番気に入ってる曲を選んでかけることにしている。これはおそらくかつてのバイト先で1曲リピートが禁止されていた名残だ。今も私は好きな曲1曲をリピートできくことを「贅沢」と感じていて、だからその5分間は、テンションを上げるための特別な時間だ。
今朝は「KID A」を選んだ。そうして溢れてきた思い出に流されて今どこを歩いているのか定かでないような気分になりながら、
きっと数年後には、この朝のことも「KID A」に紐づけられた記憶になるのだろうと思った。

レコードやCDという「もの」ではなくダウンロードで音楽を買うということは、私にとってどちらかというと「衝動」に近いような気がする。街中であったり(先日のQueenのように)、布団の中であったり、喫茶店であったり、テレビを見ながら、そこで流れている曲を買うのだったり。
そうやって手元においた音楽に、新たな記憶が蓄積されていくのは面白い。
そうして1曲が、いつかしかるべき記憶へ飛ぶ小さなタイムマシンになるのだ。

Kid A

Kid A