おおきく振りかぶって4巻/ひぐちアサ

おおきく振りかぶって(4) (アフタヌーンKC)

おおきく振りかぶって(4) (アフタヌーンKC)

おもしろい。連載で読んでるくせにやっぱり単行本で読むと違うよねーとか言いたくなるくらいおもしろい。それなのに、私の周囲には、あんまり「おおきく振りかぶって」を面白いと言ってくれる人がいなくて、「なんかいまいち…」とか言われる度に、こんなとこやあんなとこがおもしろいんだよ!と言いたくなるんだけど、いざ説明しようと思うと上手く説明できない。それは私が野球を知らないからなのかもしんないし違うかもしれないけど、まあ私が説明できなくても、ちゃんと人気あるようなのでまあいいや、とか思ってしまったりしてます。
でも、この第4巻を読んでるうちに、自分がなんでこの漫画を好きなのかがちょっと解った気がする。
たぶん私は、主人公がとても努力したりしてるのに、周囲から認められないでいる、という状況に弱くて、そしてそれが「認められる」という瞬間*1にカタルシスを感じるんだと思う。そしてこの漫画には、そういうシーンが繰り返し現れる。でもそれは主人公の三橋くんを中心とするシーンだけじゃないし、三橋くんのケースでも同じ形で現れるんじゃなくて、その時々の切実な感情が報われていく瞬間だったりするしから、ぐっとくるんだろうな。そしてその「切実さ」がひしひしと伝わってくるところが、ひぐちアサさんのキャラクター描写のすごさでもある。
この4巻でそれを1番感じたのは三橋くんの誕生日のシーンだ。自分の誕生日に、家に友達を「勉強会」の名目で呼ぶんだけど、母親はてっきり「息子の誕生日会」だと思ってはしゃいでいる。こういう痛いシーンを描いたらひぐちアサさんは天下一品のような気がするんだけど、その痛さがチームメイトたちのあっけらかんとした優しさで報われるに様はじーんとしてしまう。そして続くP42〜43の阿部君の台詞も泣ける。
それから「楽しい」練習のシーンも良かった。とても具体的に説明のスケジュールが説明されてくんだけど、それがほんとに楽しそう。食事のシーンではコマの中で三橋君が角材に立つ練習してて、次のシーンで…、っていうのもいい。それからモモカンが三橋くんの母親に「三橋君かっこいいですよ!」と言うところも泣ける。その会話のながれが、モモカン自身が報われるような言葉を聞く場面に繋がるってのもいい。
信頼感とか、楽しいってこととか、そういうことが強さに繋がるっていうだけじゃ今の時代ではちょっと説得力ないかもしれない*2けど、楽しさや信頼感が何故重要なのかってのを極めて論理的に説明してたりするシーンがこの漫画の特色にもなっている。でもその論理ってのも、きちんと「野球が好き」って気持ちとバランスをとって描かれてるのがまたいいんだ。

*1:その典型としてぱっと思い浮かぶのは「いまを生きる」のラストシーン

*2:正攻法のスポ根も同様、かもしれない