雨と基地

雨が降るとたまに、子どもの頃につくった基地のことを思い出す。
幼稚園から小学校にかけては基地制作ブームで、その基地はたぶん2つめか3つめだったと思う。自分の家の庭にあったひとり乗りブランコが壊れて、その枠を利用して作った基地だった。
隣家との間にある生け垣の手前にそのブランコの枠をたてかけて(というか立てかけてあった)、それをビニールシートで覆った安普請。庭に転がっていたフタの開く踏み台のようなものを持ち込んで布をかけてテーブルにし、地面にはピクニックシートを敷いた。靴下とシート越しのひんやりとした土が気持ちいい。 ここに基地を作ったことはまだ秘密だったし、家と家の間だから誰かが通りかかる心配もない。

家から持ち込んだクッションに座って本を読んだり、水筒のお茶を飲んだりしてくつろいでいると、いつの間にか雨が降り出していた。屋根を見上げるとブランコの枠から錆が落ちてきそうで目を細める。ビニールシート越しの光は静かで今が何時かもわからない。5時の鐘は鳴ってないような気がするけど、そもそもここには届かないかもしれない。 頭の先からつま先まで雨音に包まれた基地の中は、世界から切り取られたバリアの中みたいだった。
このまま基地ごと流されて、気がついたらどこか知らない場所にたどり着いていたら面白いのにな。そんなことを妄想しつつ、浸水しはじめた基地からあわてて避難した。

雨の日は憂鬱でしかないんだけど、傘越しの雨音に包まれているとなんだかわくわくするのは、あの基地のことを思い出すからなのかもしれない。
ちなみにその基地は翌日、濡れたビニールシートを乾かすために解体されてしまったのでした。