欲望バス(文庫版)/望月花梨

だいぶ前にでてたものみたいだけど、文庫版を見つけたのでつい買ってしまった。

欲望バス (白泉社文庫)

欲望バス (白泉社文庫)

望月花梨さんの描く物語(の多く)に共通しているテーマは、デビュー作のタイトルにもある《境界》だと私は思う。デビュー作の『境界』は、小学生の女の子が、親友に彼氏ができて、どんどん大人びていくことに戸惑うお話だった。そこで「境界」という言葉があらわしているのは、「子供でもない/大人でもない」場所/時間のことなのだけど、それと同時に、きっと「自分と他人との間にある境界」でもあったのだと思う。
幼い頃は、自分が他人ではないということを、よくわかっていなかった。
女の子であって、男の子ではないというのがどういうことなのか、いまいちピンとこなかった。
学校での時間と一人でいるときの自分が、一続きでいられた不思議。
そしてそのふたつが分け隔てられるときの摩擦や葛藤を、望月花梨さんはまるでいまそこにあることのように、切実に描いている。

…私は思春期の女の子が気持ち悪い。
些細なことですぐつるむし怒るし泣くし
とても不安定で無気味な生き物に見えます。
「コナコナチョウチョウ」

自分が「私」であるということを知るときというのは、他人もまた「私」であることを知るということなのかもしれない。そして、そのきっかけは、たとえばこの物語の主人公がチロに出会うように、「他人」との間にある境界を、こえられない、そのもどかしさを知ることにあるんじゃないだろうか。
そうだあれはこんな感じだった、と、そんなことを思いながら読む。