ペルセポリス

ichinics2008-01-29
監督:原作 マルジャン・サトラビ

イラン出身のイラストレーター、マルジャン・サトラビによる自伝的グラフィック・ノベルの映画化。マルジャン自身とフランスのイラストレーター、ヴァンサン・パロノーがによるアニメーション作品です。
物語は1978年のテヘランからはじまる。ブルース・リーの大ファンでおてんばな女の子、マルジは、パパとママ、おばあちゃんに見守られ、何不自由なく暮らしていた。しかし翌年、イスラム革命がおき、やがて内戦に発展する。女子はヴェール着用の法律ができ、風紀取締り警察におびえて暮らすようになる中、マルジはフランスへ留学することになる。
私は正直なところ、イランという国についてほとんど何も知らない。ここに描かれていることが、たった30年前のことだというのも、たとえばファッションや音楽などの断片から、なんとなく想像ができるくらいだ。それでも、マルジのいた環境は、イランという国の中にあっては裕福な、特殊なものだったんだろうなと思う。
もちろん、この映画には、一人の女の子の成長を描いた作品として、共感できる部分もある。むしろ、この映画は、イランの歴史を描いたものというよりは、育ってきた環境が違っても、そこにいる人々の悩みや葛藤には近いものがある……ということを描いてるんじゃないかな、なんていうこともできるかもしれない。フランスには行ったけど失恋で自暴自棄になってイランに帰るくだりとかね。身の置き場のない感じとか、無力感とか。留学時期の場面は、見ててもやもやする部分もあったんだけど、
そこを経て、マルジが「男性がいくら自由な格好をしてても女性が性的興奮を覚えることなんてないのに、なんで女性だけヴェールを長くして身動きとりづらい格好をしなければならないんでしょうか」と啖呵をきるところなんて、おお、と胸のすくような気持ちがした。でもやっぱり、それを口にすることのハードルやアイデンティティに対する切実さを、私は知らないんだなあと思ったりもして。
この作品の最大のテーマは、作品中で何度か繰り返される「常に公明正大であれ」というおばあちゃんの言葉だと思う。だからこそ、簡単にマルジに感情移入することはできないのだけど、
おばあちゃんがブラの中にジャスミンの花入れてるって印象的なエピソードを思い返しながら、それが、たとえどのような場所にいても、自分に対して公明正大であるというその心構えの象徴のように感じたりもした。自分だけは、自分の行為をいつも見ている。とか、そんなふうに。
それから「ペルセポリス」はアニメーション映画としても面白い作品だったと思います。グレーを基調としたモノトーンはお話の雰囲気にあっていたし、陰鬱な場面でも、アニメーションならではの動きのディフォルメがいきいきと見せていたせいか、場内ではところどころ笑い声もおきていた。