選手キャラソンとしての「登場曲」と、初めての「アイキャントライ」

プロ野球に「登場曲」という文化があることを知ったのは、昨年の*1野球に興味を持ってわりとすぐのことでした。
「登場曲」とは、ホームチームの選手の打席や登板時にかかる曲のこと。
配信だと解説の音声とかぶってよく聞こえないことも多いのですが、日頃からプレイリストを聴きまくっているので、今期のタイガース選手の登場曲はかなり覚えることができました。

選手登場曲|チーム情報|阪神タイガース公式サイト


登場曲の選び方は選手それぞれだと思います。盛り上がる曲を選ぶ人、好きなミュージシャンの曲を選ぶ人、自分の境遇に重ねたり、近しい人や恩人に選んでもらう人。
登場曲に触れているインタビューが必ずあるわけではないので、選んだ理由は想像するしかない部分もありますが、野球に縁のない人生を送ってきた自分にとって、登場曲は選手を知る手がかりのひとつになっています。

選手を思い浮かべながら登場曲リストを聞いていると、このフレーズでこの曲を選んだのかな、なんて思うこともある。
もちろん勝手な思い込みですが、それが自分にとっての選手のイメージにつながっていくし、活躍したシーンの回想BGMになっていくんですよね。

そういうところが、登場曲はすごく「キャラソン」だと思うんです。

キャラソンは通常、そのキャラクターをイメージして作られた曲なので因果が逆ですが(そうやって作られた登場曲もあると思いますが)、聞きこんでいくうちに自分の中でキャラソンになっていく感じ、きっと多くのファンに共通する感覚なんじゃないかなと思っています。

普段は関東の球場で試合を見ることが多いので、どちらかといえば対戦チームの登場曲を球場で聴くことの方が多いのですが、好きな曲を登場曲にしている選手がいると一気に親近感が湧いたりもします。

例えばスワローズの小川選手、登板時はニルヴァーナで打席はオアシスなんですよね…。そんなの問答無用で盛り上がる。ベイスターズの牧選手の「君が好きだと叫びたい」はトレードマークだし、安室ちゃんTRY ME聴くともう桑原選手のこと思い出すようになってしまいました。



8月22日、京セラドームで阪神vs中日戦をみてきました。
甲子園球場高校野球が開催されている間しかない「京セラドームでのホームゲーム」です。中日ファン阪神ファンの友人と3人で並んで観戦できて、それもとても楽しかった日。

試合は2回表、CD細川選手のヒットにはじまり村松選手のゴロで1点先制されてスタート。
3回裏に中野選手の犠牲フライで同点、4回裏に木浪選手のタイムリーで1点勝ち越し。そこから6回表にドラゴンズが2点追加で勝ち越し、さらに7回の裏にタイガースが1点を取って同点、というジリジリした展開。
この展開ならもしかして、と思った9回の表、場内に流れたのはこの数か月聴き続けてきた「アイキャントライ」でした。


「アイキャントライ」は私が一番応援している、岩崎優選手の登場曲です。
そしてこの日は私がはじめて岩崎選手の登板を見れた日でもありました。

今年の開幕前は「クローザー卒業」の予定だった岩崎選手ですが、色々な事情もあって、結果的に今期も抑えとして登板し続けています。
つまり、点差の少ない、勝つことが期待されてる試合でしか出てこない。プレッシャーの多い場面で淡々とマウンドに立つその姿を、うっすらと聞こえる「アイキャントライ」とともに、今シーズンずっと画面越しに見てきました。

「アイキャントライ」を歌っていて作詞作曲もしている河野万里奈さんは大の野球ファンということで、この曲には野球の、「いい時もあれば悪い時もある」中で目の前のことを一つずつ積み重ねていく選手たちの魅力が詰まっているなと思います。

「私が好きなのは「挑み続ける」というフレーズが何度か出てくるところと、あとは「貫いた心に勝ち星は光る」も好きですね。私はそういう生き様でしたので。何かを一つやるみたいな、そういう性格でもあるので」(月刊タイガース2023年6月号)

岩崎選手は河野万里奈さんとの対談記事で、「アイキャントライ」の好きなフレーズについてこのように話していました。
こういった、登場曲についての話を聞くことができると、選手に対する解像度もぐっとあがるような気がします。


長らく岩崎選手の登板を見たいと思っていたけれど、初めて見ることができたのが登場曲のあるホームゲームでよかった。
この日の試合はブルペンの継投でしっかり抑え、10回裏、大山選手のサヨナラタイムリーで勝利。
帰りの新幹線で試合中に撮った画像を見直しながら聞く「アイキャントライ」は、五臓六腑に染み渡るようでした。

今後見続けていく中で、きっとそれぞれの登場曲にこうやって思い出が積み重ねられていくのかなと思います。
いやー野球って面白いですね……。

*1:「嫌われた監督」を読んで