「その日」の記録

今年、初めて応援するチームがある状態で野球を見た。
昨年もちらほらとは見ていたけれど、選手をしっかり認識して見たシーズンは今年が初めてだったので、私には今年と比べることのできる過去がない。

ただ、平日は帰宅してから/土日は予定のない日だけ、というペースではあるものの、開幕試合以降1イニングもみていない試合*1はたぶん15試合もないというくらいには夢中になって、見れなかった試合も、もちろん試合結果は追いかけてきたわけで、
だから好調/不調の波はあるものの、それをみんなでカバーしてきたのを知っているし、エラーをした選手が積み重ねてきたダブルプレーを見ている。今日打てない選手が打った夢みたいなホームランを覚えているし、ホームランを打たれた選手が抑えてきた9回をいくつも見てきた。



だからきっと大丈夫だと思いながら、定時を待って会社を飛び出しラジオを聴きながら電車に乗った。混雑しているのもお構いなしに、とにかく早く帰れる方を選んで急ぐ。
ラジオのプロ野球中継は密度が濃い。実況の細やかさはもちろん、背景の応援歌もきちんと聴こえてきて、耳だけ球場とつながっているみたいで、惜しい展開には思わず声が出そうになる。

4回に1アウト満塁のチャンスがあったものの決まらず、しかし先発の才木投手も踏ん張り0-0のまま帰宅。ラジオをつけっぱなしにしながらPCを立ち上げる。

そうして迎えた6回裏。
幾度も「勝利への道」を切り開いてきた1番近本選手が出塁、3番ルーキー森下選手のヒットで1アウト1・3塁のチャンスがやってきた。
次は4番の大山選手だ。
解説者が大山選手が最近不調であることに触れる。
でもファンはみんな、今シーズン他の選手が不調なとき、幾度も大山選手に助けられてきたことを覚えているだろう。
前日のインタビューでは監督も、大山選手について「関係ない時に打たん方がええ。大事な時にまた打つように、また調子上げていって」*2と言っていた。監督が大山選手を信じていることは、1年目のファンである私にとっても、とても嬉しいことだった。

今年の不動の4番打者に、ここで決めてほしいと祈るような気持ちで画面を見る。

そしてついに、大山選手の犠牲フライで先制点が入った。
続く5番、佐藤輝明選手。
佐藤選手も今年は好調不調の波が激しかった。解説者がそんな振り返りをはじめたところで、過去を振り払うかのような2ランホームランが飛び出して3-0。

7回表にソロで1点を返されるも7回裏にまた返す。
8回表で投手は岩貞選手に交代。再び1点返されるも石井選手で1アウト、島本選手の痺れる2者連続三振で抑える。

そして4-2で迎えた9回表。
岩崎選手がいつもの登場曲ではなく、今年亡くなられた同期、横田慎太郎さんの登場曲でマウンドへあがった。
7月25日に甲子園で行われた、横田さん追悼試合のことを思い出す。あの日も最後は岩崎選手だった。

1アウトをとったところで、巨人、坂本選手にソロホームランを打たれる。
瞬間、8月29日DeNA戦の2打席連続ホームランのことが頭をよぎる。好きな選手が打たれると悲しい。あれは私にとっては今年一番悲しかった試合だった。
けれど、もうすでにあの日のことは振り払った岩崎選手を見ている。誰かのためにというシチュエーションに強いことももう知っているので、
マウンドに集まった皆と目を合わせ、少し笑っているのをみて、きっと今日だと思った。

そして2アウト3塁、一打同点のタイミングでのセカンドフライは、今年フルイニング出場し続けている中野選手がしっかりとキャッチした。

8月13日に梅野選手が死球による骨折で離脱して以降、全ての試合でスタメン捕手を務めてきた坂本誠志郎選手が真っ先に岩崎さんに抱きつき、あっという間にマウンドは歓喜の渦に飲み込まれた。
駆け寄ってくる選手全員の顔を見逃したくなくて目をこらす。
横田さんのユニを手にした岩崎選手が宙に舞う。
梅野選手と坂本選手が抱き合っている。
そして人波の向こうで、大山選手が泣いていた。


インタビューで監督がついに「優勝」という言葉を口にして、これが「リーグ優勝」なのかと思う。18年ぶりの、このような得難い機会をファンになって初年度に味わっていいのかという思いもある一方、これに間に合えたことが本当に嬉しかった。

1人で乾杯しながら、配信でビールかけの映像を見る。普段とは違う、無礼講の様子が楽しい。
ビールかけ後には選手インタビューの配信もあるというので、ぎりぎりまで眠らずに布団の中で配信を見た。
「ファンに一言」と促された岩崎選手が「おめでとうございます」といっていて*3、ファンが選手に祝われることがあるなんて、嬉しくて本当に、ありがとうございますと思った。

週6で開催される試合を約半年追いかけてみると、シーズンのあらすじから月単位、週単位、選手単位、1試合単位、1イニング、1プレーといくらでも拡大できる巨大な画像が脳内にできあがっていくような気分になる。
長年のファンの人はきっとこれが年間とか監督とかの単位でも広がっていくのだろう。

もちろん、見たもの全てを覚えてるわけじゃないし、試合中に料理してたりビール買いに行ったりもしてるわけなんだけど、印象に残ってる場面っていうのはそういう自分の状況とも相まって記憶されているものだとも思うので、まだシーズンは終わっていませんがひとまず、阪神タイガースが18年ぶりにリーグ優勝した「その日」のことを記録しておこうと思い日記を書きました。

今は優勝に関連した各社記事も全部読みたいし、見れるインタビュー映像は全部見たいし、胴上げやビールかけの画面隅々までチェックしたい!って焦るような気分で過ごしていますが、これも得難い体験なので、味わい尽くしたいなと思っています。

続く!



スポーツ新聞社のコンビニプリントなども盛りだくさんで嬉しい。