日本シリーズのあった1週間(後編)

関東に住んでいると、あまり阪神タイガースのニュースが流れない。
素晴らしい試合の翌朝も街はしんとしていて、ただコンビニのスポーツ新聞棚だけが光り輝いている。

シーズン中はずっとそのことが物足りなかったのだけど、さすがに日本シリーズは違った。
1週間、毎日面白い試合が繰り広げられ、翌朝も昨日の試合の話題に溢れていたのが嬉しかった。


写真は7月の甲子園

そんな1週間の日記と試合展開メモ続きです。
前編はこちら
日本シリーズのあった1週間(前編) - イチニクス遊覧日記


11月2日/5試合目

甲子園/先発:大竹耕太郎(阪神)vs田嶋大樹(オリックス

朝から、明日(休日)の午前中に打ち合わせの打診が入り、普段ならへこむところだったけど、昨夜の快勝の余韻で元気だった。好きなチームの勝敗が翌日の機嫌を左右するなんてことが我が身に起こるとは思ってもみなかった。
例によって定時で退社。ラジオを聴きながら家路を急ぐ。
11月の夕暮れにこうして中継を聴きながら早足で歩いたことを、きっといつか思い出すのだろう。
帰宅して、8時頃までは文鳥の放鳥をし、それ以降は夕食を食べたり、弁当の用意をしたり、隙あらば風呂に入ったりしながら観戦をするのは「生活」だ。

この日の試合は、昨日に引き続き”流れ”を引き寄せる力を感じる試合だった。
テレビの前で見てるだけなんだけど、なかなか点が取れないとしんどいし、球数重ねて丁寧に抑えようとしたところにエラー出たりすると悔しいし、援護したいのに1点がはるか遠くに感じられて、
でも点が入るとそんなの全部忘れて一気に全て報われたような気持ちになる。好きなチームの試合を見るって、そういうことなんだと思った試合。

  • 試合展開メモ

1回裏、今日も近本選手のヒットで幕開け。本日も絶好調で頼もしい限りだ。4番、大山選手の打席で森下選手が盗塁を試み、このシリーズ初のリクエスト判定となった。結果は失敗。だけど勢いのある滑り出し。

ラジオ実況はこの日の先発である大竹投手を「ハイテンポ投法」と評していた。現役ドラフトでホークスから移籍してきた今年、大竹投手はローテの一角を担い2桁勝利をあげている。ホークス時代は球速がないことを自身の弱点と捉えていたが、移籍後は制球力を長所と捉えられるようになった、ということをインタビューで話していた*1。コントロールもさることながら、緩急を使い分けた多彩なボールで打者を翻弄するのが大竹投手の魅力だ。
今日も好調な様子が音声でも伝わってくる。早く帰って画面でみたいなと思いながら家路を急ぎ、3回裏あたりで帰宅した。

4回表、ゴンザレス選手のソロホームランでオリックスが先制。でも動じない。この1年で「ソロは仕方ない」と思うようになった。そこからの展開がどうなるかだ。
4回の裏、先制を受けてかオリックス田嶋投手の投球が変わった。解説が「ギアチェンジ」と話していたが、アクセルを踏み込むかのような、投球のモードの変化が素人目にも感じられた気がした。

しかし大竹投手も譲らず、5回表までを投げ切り、6回表で西純矢投手へ交代。

西純矢投手は、今年5月24日、リリーフとして登板したスワローズ戦で、思うような投球ができなかったのかベンチで涙を浮かべていた様子が印象的だった。結局その試合は勝利し最後はちゃんと笑顔になっていたのだけど、野球選手ってこんなに感情をあらわにするものなんだ(みんながそうなわけではないですが)、と自分の中で野球選手のイメージが変わった瞬間でもあった。
監督に「問題児」と称されていたのは、激励だと思うのだけど*2、リーグ優勝時のビールかけでは「今年は(自分は)全然だめでした」と発言したりしていたから、納得のいくシーズンではなかったのかもしれない、と想像する。
でもだからこそ、このような場面で出番がくること、きっとめちゃくちゃ気合が入っているだろうなとわくわくした。1年間見たことで、そんなふうに、一人ひとりの選手の物語が少しずつ見えてくる。

6回表は0に抑える。7回表、相手ピッチャーに四球を出す場面もあったが1アウトをとったところで島本投手に交代。
するとオリックス森選手の打席で、中野選手の捕球ミス(とても珍しい)に続いて、森下選手のファンブルによって1点を追加されてしまった。再びピッチャー交代、この回最後の打者は石井投手が抑える。

0-2のまま流れが傾きかけた8回表、登場したのは昨夜の1球の余韻も鮮やかな湯浅投手だった。今度は1イニングを3者で抑える圧巻のピッチングで完全復活をアピールし、再び流れを変える。

8回裏、先頭、木浪選手のヒットにオリックス側の悪送球も絡み一気に2塁へ。代打の糸原選手も出塁。そして今シーズン「得点圏の鬼」と呼ばれた得点圏打率1位の近本選手がタイムリーヒットで1-2とした。
得点圏打率という指標があること、それこそが野球に「流れ」があることの証のように思う。
さらに中野選手の送りバント、そして先ほど自身のファンブルでの失点を挽回するかのような、森下選手のタイムリスリーベースで3-2の逆転! さらに4番の大山選手のタイムリーで4-2、坂本選手のタイムリーで6-2、打順が1周して、なんとこの回、6点を追加した。

9回表は岩崎選手が3者で抑えて勝利。38年ぶりの日本シリーズ優勝へ王手をかける試合となった。
継投は大竹、西純、島本、石井、湯浅、岩崎。ヒーローインタビューは湯浅&森下。2人とも嬉しそうで見ているこちらも嬉しい。
結果:阪神6-2オリックス


11月3日/移動日という名の休養日。

この日は中日ファンの友人と、最近Bリーグにはまっているという友人と3人で飲んだ。
ずっと前からちょくちょく集まるメンバーなのだけど、こんなふうにスポーツの話ばかりしているのはかつてないことで新鮮だった。競技は違っても「スポーツ」を好きになることで「わかる!」が増えるのも面白い。

中日ファンの友人には、昨年、私が初めて選手名鑑を買ったばかりの頃にも話を聞いてもらった。その時は名鑑を見ながら、私はクローザーがかっこいいと思うので現役のクローザーを応援したい、というような話をした覚えがある。岩崎優選手のでる試合を見てみよう、と思ったのもたしかその日だった。
ご飯の後、お茶をしながらあれこれ話をして解散。

お土産に阪神のリーグ優勝記念のお菓子をもらった。
知ってたけど、ほんとに優勝したんだなあ、って実感できてとても嬉しかった。


11月4日/6試合目

京セラドーム/先発:山本由伸(オリックス)vs村上頌樹(阪神

掃除と洗濯をすませてから妹の家へ。
先月生まれたばかりの妹の子は、まだ生まれてひと月も経っていないのにもう赤ちゃんから「子ども」へと変化しているような気がした。たくさん抱っこさせてもらったけど、明らかに前回より重くなっていて頼もしい。
母もやってきて入れ替わり立ち替わりで抱っこしつつ、あれこれと話をする。日本シリーズを楽しんでいるらしい母は普段は日ハムを応援しているのだけど、阪神なら中野選手が好きとのこと。
母が帰ったあとも、なんだかんだ夕方までたっぷり喋って帰宅。

この日は友人の助言に従って妹の好物を差し入れたのだけど、もう袋を見た瞬間に「食べたかった!」と喜んでくれて嬉しかった。買い物などにでれるようになるにもまだしばらくかかるだろうから、ちょくちょく差し入れに行きたいと思う。
電車を乗り継いで帰宅。夕食を作っているうちに今日の試合がはじまった。

  • 試合展開メモ

中6日で再びのマッチアップとなった本日の先発。
相手は今年3年連続3度目の沢村賞を受賞している山本投手であり、なおかつこの日本シリーズが終わればメジャーリーグへ挑戦するとも噂されている。そんな選手から2試合連続で勝ちを奪うことはできるのだろうか?
阪神は第2、3戦で先発した西勇輝投手、伊藤将司投手もベンチ入りしている。

1回裏、1アウト1、2塁にランナーを背負ったピンチでオリックス5番、頓宮選手の打球を木浪選手が横飛びで捕球するファインプレー。

2回表には背番号7番ノイジー選手が先制ホームラン! 阪神側にはこれがこの日本シリーズ初のホームランとなった。そこからこの回3つのヒットがでたものの、得点は1に止まった。

2回裏、オリックス若槻選手のタイムリーで同点、続く中川選手の犠牲フライで2-1の勝ち越しとなり、さらに5回裏で2点を追加され4-1。

6回の裏で投手は2試合目先発を務めた西(勇)投手に交代。失点は8回のソロ被弾にによる1におさえたものの打線の援護は出ず、5-1で試合終了となった。

完投勝利した山本由伸投手は、さすが昨年日本一となったチームのエースという圧巻のピッチングだった。
村上選手の悔しそうな顔が印象に残る。しかし日本シリーズで2回先発を任されたのは自分だけだということとはきっと大きな自信になるのだろう。
そして両チームここまでの得点は23対23、まさに五分五分の戦いだ。

結果:オリックス5-1阪神


11月5日/7試合目

京セラドーム/先発:宮城大弥(オリックス)vs青柳晃洋(阪神

家事を片付けてから映画館へ。「ゴジラ-1.0」を見て(ゴジラのテーマが流れて満足)、今週分の作り置き食材を購入して帰宅。
この日は前日まで地上波での放送予定がなかったため、昨晩LINEで母にTVerの使い方を説明していたのだけれど、さすがに最終戦を放送しないわけにはいかないということか、急遽地上波放送が組まれていた。

料理と風呂を済ませ、万全の体制で試合開始時間を迎える。3勝と3勝同士の、日本一をかけた最終決戦だ。

  • 試合展開メモ

今日の先発は、CS・日本シリーズ通して初登板となる青柳選手。
昨年は最多勝最優秀防御率、最高勝率の3タイトルを獲得し、今年の開幕投手にも選ばれたエースだが、今年序盤は調子が上がらず、5月から調整の日々が続いていた。
復活は2か月後の夏で、私が初めて球場で見た阪神の勝利試合も青柳選手の先発試合だった。
ブルペンには第3、4戦に先発した伊藤投手、才木投手もいる。そしてDHにはついに今シーズン、ずっと試合前の円陣で皆を鼓舞し続けてきた原口文仁選手が登場。
最終決戦といった趣の布陣に気持ちも高まる。

1回表、近本選手の出塁から中野選手の送りバントが成功という「調子の良い時」の流れで幕開け。
応援席からはすでにチャンテが流れている*3。基準はわからないのだけどシーズン中は、チャンスでも試合前半にはあまりかからない気がするので、1回でもうチャンテという応援団の出し惜しみのなさも日本シリーズ! っていう高揚感がある。
この回、得点はなかったものの、なんとなく押せている雰囲気のまま1回の裏、このシリーズ初の「下手投げ気味のサイドスロー」で投げる青柳選手のフォームが鮮やかだ。

試合が動いたのは4回表。森下選手のヒットに続いて、打席に入った大山選手がデッドボールを受け1、2塁。腕か背中のようなところに当たって心配していたところに、続いて打席に立ったシェルドン・ノイジー選手が昨日に続いてのホームランを繰り出し一挙3得点を先制した。
会場はもちろん、野球のTLも大歓声に包まれていた。今シーズンはなかなか打率が上がらず、きっと苦しんだ時期もあったと思う。けれどまさか日本シリーズでの2日連続ホームランだなんて! 普段物静かなノイジー選手が満面の笑みを浮かべているのをみてぐっときた。

そして5回表、坂本選手、近本選手とヒットが続き、中野選手の1塁アウト判定がリクエストで覆ったところにオリックス宮城投手から比嘉投手に交代。直後、森下選手のタイムリーで1点、大山選手の内野安打で1点、さらにノイジー選手のヒットでこの回3点を加えて0-6に。

5回裏、2アウト1、2塁となったところで島本投手に交代。今年、岡田監督に「ランナーおったら島本よ」*4と評された火消し役が今夜もこの回最後のアウトをもぎ取って0に抑えた。

6回裏から投手は伊藤将司投手へ。今年、2年ぶりの2桁勝利をあげた伊藤投手は、いつも通りたんたんと(私の主観ですが)、0を積み重ねていき8回裏までを投げ切った。

9回表、またしても近本選手が出塁。そして3番森下選手も負けじとタイムリーを打ち、0-7とした。

そして9回裏。登場するのは、今年守護神を務めた岩崎投手だろう……と多くの人が思っていたところに、呼ばれたのはなんと桐敷投手! 第4戦の勝利確定後には涙も見せていたけれど、この日も「スペードのエース」らしいピッチングで2アウトをとった。
そして3人目のバッターを迎えるタイミングで岩崎投手が登場。
オリックス頓宮選手に出会い頭のソロホームランを浴びるも、最後はレフト方向に飛んだ打球をノイジー選手がキャッチして試合終了。
阪神タイガースが38年ぶりの日本一のチームとなった。

結果:オリックス1-7阪神


***


試合が終わったのは日曜の夜だった。

日本一が決まった瞬間、そんなにたくさんの人に野球の話をしているわけではないのに、いろんな人から連絡をもらって、好きなチームのことで自分を思い出してもらえるなんて素直に嬉しいことだなと思った。

明日は月曜だけど、我慢しきれずビールをあけ、日が変わる時間まで選手たちのビールかけをみた。
ビールかけの挨拶で監督は日本シリーズの結果について「3月31日にスタートしてこんな日が来るとは思ってなかった。ほんとは9月14日(リーグ優勝)のためにやってたんだけどね、それのご褒美がきたんでね」と言っていた*5

ファンとして見ていても、リーグ優勝があくまでも「本番」であって、日本シリーズはボーナスステージのような感じなのかなと、最初は思っていた。連日面白い試合で、確かにご褒美のような、カーテンコールのような、お祭りみたいな1週間だったけど、
でもやっぱり勝って、こうして喜んでいるところを見たかったのだと思う。

本当に、2023年の阪神タイガースを追いかけられてよかったです。
ありがとう阪神タイガース

(そしてはじめてのオフシーズンがスタートしました)

*1:月刊タイガース2023.11月号

*2:https://www.nikkansports.com/baseball/news/202305200000406.html

*3:「チャンス襲来」という阪神では一番人気がある(たぶん)チャンステーマ

*4:https://www.nikkansports.com/baseball/news/202308040001589.html

*5:https://youtu.be/dYwOzM039VE?si=567e8bpW3wUnI-_W