2023年の阪神タイガースを振り返る回

2023年は自分にとって、はじめて応援するチームのある状態でプロ野球観戦を楽しんだ1年でした*1
それどころか好きなチームがリーグ優勝をして、CSも勝って、日本一にもなって、一番好きな選手がセーブ王にもなった。
この年に間に合ったことについて「運がいいね」とたくさん言ってもらったし、自分でも本当にそう思います。(ありがとうございます!)

つきましては、この初心をできるだけ記録しておきたい、ということで、今年の試合で印象に残った場面振り返りをやりたいと思います。
先日、阪神ファンの友人と「今年の阪神振り返り会」をやったのですが、それに合わせて作成した「印象に残った今年の場面ベスト10」リストをもとに、時系列に15試合分(増えた)、書いていきます。


3月31日 京セラドーム/阪神vs横浜

自分が阪神ファンになったきっかけは、昨年のシーズン序盤に連敗していた阪神が、終盤になってクライマックスシリーズ進出を争っていたこと、その様子を自分の退院直後というタイミングで見て、すごくぐっときたことにあった気がします。*2

なので2023年は開幕戦から阪神戦を見ておりました。

3点リードで迎えた9回の表。今季初守護神に抜擢された湯浅投手が四球、四球、1アウト、四球で満塁という1発逆転の場面。マウンドに皆が集まったところで湯浅選手も笑顔を見せ、2アウトをとって記念すべき初セーブを決めた、という試合です。
要するにめちゃくちゃハラハラした試合なんですけど、これでもう阪神から目が離せなくなった気がします。


5月3日 甲子園/阪神vs中日

先発した西勇輝投手が6点を先制され、2回で降板したというピンチの試合。

一時はどうなることかと思いましたが、

  • 2回の裏でしっかり2点返し、その後も着実に点を積み重ねていった
  • 冨田ビーズリ石井岩貞ケラーというリリーフ陣の層の厚さを感じさせる継投があった
  • 中日が1点リードの9回、抑えのライデル・マルティネス投手がでてくるという正直かなり厳しい回に、4番、5番で1点を返し、代打原口選手のヒットで出塁、梅野捕手が四球を選んで満塁となったところで木浪選手のサヨナラ打が飛び出すという土俵際の強さ

などのポイントで、今年の阪神を象徴するような試合だった気がします。
しかも木浪選手にとってはこの日が初サヨナラだったんですよね。開幕スタメンではなかった木浪選手の「ここぞ」という場での活躍、今年はたくさん見れましたね…。
自分にとっては今年初めて記念にと翌日のスポーツ新聞を買った試合です。


5月24日 神宮球場/ヤクルトvs阪神

逆転、逆転からの逆転という見てる方にとっては楽しい試合だったのですが、この日を選んだのは7回裏に登板した西純矢投手が2つ四球を出した後に交代となり、ベンチで泣いていたことがめちゃくちゃ印象に残っているからです。
野球選手って、ベンチで泣くんだ!? というのがかなり衝撃だったのと、
西純矢投手はこの後、7月17日の甲子園では先発からの自援護を決めてヒーローインタビュー、8月1日にもバンテリンドームで自援護を決めるんですけども、出塁した時の嬉しそうなダブルピースでベンチにアピールする様子とのギャップに、なんかこう、応援したくなってしまったので、そのきっかけの試合でもありました。

さらにこの試合は今シーズン大活躍した島本投手に4年ぶりの勝ち星が灯った試合。
チームの勝利となった段階では西純矢投手も満面の笑みでした。喜怒哀楽が素直すぎる。
ちなみに岡田監督からは5月20日の段階で「問題児」と呼ばれています*3

7月17日の大活躍はこちら
youtu.be


5月27日 甲子園/阪神vs巨人

今年、現役ドラフトで阪神に移籍してきた大竹投手の、涙のキャリアハイ、6勝目の試合です。
7回まで無失点に抑えていた大竹投手の好投に応えるかのように7回裏、坂本捕手が四球出塁、木浪選手の送りバント、そして大竹投手の代打で渡邉諒選手の四球、からの1番近本選手、2番中野選手のタイムリーで大竹投手に勝ち星が灯った瞬間、ベンチで泣いている大竹さんの姿が映り、おそらく見ていた阪神ファンが皆、大竹投手に心を鷲掴みにされてしまったという試合でした。
この涙について、当日のヒーローインタビューで大竹投手はこう語っています。

「1人はみんなのために。みんなは1人のために。そういうチームプレーを感じたので、思わず出ました」
【阪神】大竹耕太郎がベンチで号泣の理由を告白「また泣きたい」キャリアハイ6勝目 - プロ野球 : 日刊スポーツ

いやー阪神タイガース、いいチームですね…。


6月3日 甲子園/阪神vsロッテ

今年の阪神を象徴する出来事の一つが、中野選手の二塁手転向でしょう。それによって内野は1塁大山、2塁中野、3塁佐藤というのがほぼ固定のポジションとなりました。
そんな中、内野で唯一、ほぼ固定だけれども流動的であったポジションがショートで、ここを争っていたのが木浪選手と小幡選手でした。

開幕戦のショートは小幡選手でした。けれどその後、木浪選手は与えられたチャンスをものにし、「(これだけ活躍していたら)外せない」という選手になっていきます。先ほども書いた5月3日の初サヨナラはその象徴的な場面でもありました。
でも小幡選手も負けてないんですよね。
木浪選手の初サヨナラからちょうどひと月後のこの日、9回裏、木浪選手のヒット出塁からの投手代打で小幡選手が打席へ。木浪選手には代走が出て交代となりました。
そして同点のまま11回までもつれ込んだ試合は、小幡選手の初のサヨナラヒットで勝利となったのでした。
お互いに与えられたチャンスをものにしていく、このライバル関係の相乗効果が、今年の阪神の見どころでもあったと思っています。


6月4日 甲子園/阪神vsロッテ戦

2023年を才木投手の成長譚として見た時、中心に描かれるのはきっとこの「才木浩人投手vs佐々木朗希投手」戦でしょう。
事前の予想通りに0が並べられていく試合の中、ベンチ一丸となって先に風穴を開けたのが阪神でした。普段やらない円陣をすることで、相手ベンチに揺さぶりをかけたという逸話は、映画*4でも触れられていましたね。
その後、7回で佐々木投手は降板、才木投手は最後まで投げきり、今季初完封となった試合です。

遡って3月6日、WBC日本代表vs阪神の試合に先発した才木投手は、大谷投手の片膝をついての3ランホームランを被弾、この時の悔しさについては今年、幾度もいろんな場所で語っていました。
そういう悔しさを忘れずに抱え続けてきからこそ、この日の完封勝利はきっと自信になっただろうなと想像します。

後述しますが、才木投手はリーグ優勝を決める日にも先発し7回1失点。「力み倒すだろうな」という監督のコメント*5もあった中、その予想を裏切ってみせました。

さらに日本シリーズでの、熱投も記憶に新しく、来年についても「取れるタイトルは全部取りに行きたい」*6と語っているので、今から活躍がとても楽しみです。


7月24日 神宮球場/ヤクルトvs阪神

今の阪神で、近本選手ほど「きっとなんとかしてくれる」という期待を背負っている選手はいないんじゃないでしょうか。それを象徴しているのが今年の得点圏打率1位(.374)という成績と、それに伴う「得点圏の鬼」という異名だと思います。

だからこそ、7月2日の巨人戦で近本選手が右脇腹に死球を受け、骨折という報道が出た時、私はかなり絶望的な気持ちになりました。きっと多くのファンがそうだったんじゃないでしょうか。
私自身は骨折した経験がないんですけど、骨折って普通何ヶ月もギプスをはめて治療をするイメージで、だからもう今季は出れないのかな……なんて思ったりもしました。

しかしそんな不安をよそに、わずか20日後、23日のヤクルト戦で近本選手はスタメン復帰しました。
そしてこの24日の7回、ヤクルト長岡選手の伸びていく打球を、大ジャンプキャッチして球場を沸かせ、再び「近本がいるなら大丈夫」と思わせてくれたのでした。

「『ライトや、ライトフライや』と思ったけど、こっちに来てたんで。ジャンプしたら入ったっす」
【阪神】骨折復帰の近本光司、首位守った超美技 一瞬「やべー」も「ジャンプしたら入ったっす」 - プロ野球 : 日刊スポーツ

近本選手はインタビューの受け答えも独特で面白いです。


7月25日 甲子園/阪神vs巨人

この日は、7月18日に亡くなられた、元阪神の横田慎太郎さんの追悼試合でした。
自分は残念ながら横田選手の現役時代を見れていないのですが、特に好きな岩崎投手の同期の選手であったことをきっかけに、病気で引退されたということは事前に知っていたため、突然の訃報に驚きました。長年のファンの方の惜しむ声を見ていても、本当に愛された選手だったのだと思います。

訃報の後、ようやく甲子園に戻ったこの日、横田さんの追悼試合が行われました。
5回で勝ち越されるも6回で逆転、そこからはドラフト同期で引退試合にも立ち会っていた加治屋投手、そして同期入団の岩貞投手、岩崎投手という思いのこもった継投で勝利した試合でした。

感動的な試合であったことはもちろん、岡田監督はそういった、選手たちの思いを汲んだ采配をする人なんだということも印象に残った試合でした。


8月6日 横浜スタジアム/横浜vs阪神

この日、1点リードで迎えた7回、1アウト2、3塁のピンチを迎えたところで、マウンドに呼ばれたのが島本投手でした。持ち前の強気なピッチングで内側を攻め、ショートフライで2アウト。続く関根選手の打席でも三振をとり見事な火消しを務めました。

この日の試合後インタビューで監督は「島本さまさまよ」*7と語り、この言葉はファンの間でミーム化していきましたが、日本一となった今シーズンを通して、その評価が揺らぐことはありませんでした。

遡って7月30日、ヒーローインタビューの場で島本投手は「みなさんに信頼されるように頑張ります」と言っていました。すでに数々の場面でピンチを救ってきた島本投手だからこそ、ファンの多くは「もうすでに信頼しているのに」と思ったかもしれません。
そして8月6日の「島本さまさまよ」を挟み、8月23日。京セラドームでまたしても見事な火消しを披露しヒーローとなった島本投手は「(捕手の)坂本さんに信用していますと言われました」*8と語り、岡田監督も「島本が本当に頑張った」と絶賛しました。

私は野球選手の中でも特にリリーフ投手というポジションが好きなんですけども、やはりこの、置かれたポイントで期待に応えるということ、それによって勝ち取った信頼が、またその選手の力になっていく様子に魅力を感じるのだと思います。

この8月6日のヒーローインタビューは公式youtubeの舞台裏映像がアップされているのですが、周囲の人たちも島本さんがの活躍を嬉しそうに見守り、ヒーローインタビューの場へと送り出しているのが印象的で、今年の阪神公式動画のベストを選ぶならこれです。
www.youtube.com



8月18日 横浜スタジアム/横浜vs阪神

1点差の9回、代走に出た熊谷選手が2塁へ進もうとした際に、ショートの京田選手の守備がベースを塞いでしまっているのではないかということで物議を醸し、その時の進塁はアウトとなったのですが、そのことに岡田監督が猛抗議したことで話題になった試合でした。
この日、私は3塁側の内野席にいたので、抗議の様子もよく見えたのですが、その監督の様子を選手が皆、じっと見ていたこともとても印象的でした。
何というか、上司が率先して本気の態度を示してくれること、今自分が仕事で一番求めているものがそれだったので、心の弱いところにぐっときてしまいました。

ただ、自分が帰った後に球場ではいろいろとトラブルがあったそうで(阪神ファンがグラウンドにゴミを投げ込んだ等)そういったことについて、インターネットでチームにの悪口を書かれていることにも凹んだ日でした。
好きなチームができると、こんなに気持ちを揺さぶられるんだ、と思った試合。

→後にルール変更にもつながりました。
阪神・岡田監督が球界動かした!「ブロッキングベース」5日から適用― スポニチ Sponichi Annex 野球


8月29日 甲子園/阪神vs横浜

大きく勝ち越した長期ロード明けの甲子園1戦目。
2-0でリードしたまま迎えた9回の表、マウンドにあがった岩崎投手が佐野選手、牧選手に2打席連続ホームランを浴び、優勝マジックが消滅しました。

その日、ロード期間中の連勝ムードの余韻を引きずっていた自分は、昨年の交流戦でもらった横浜のTシャツ(部屋着)を着て試合を見ていました。だからこそ(もちろん関係ないのは完全に理解したうえで)自分の慢心にショックを受けた試合として印象に残っています。
8月頭の巨人戦のあたりで、監督は「(ブルペン陣に)だいぶ負担をかけている」と語っていましたし、疲労のピークともいえる頃だったのかもしれません。
なので、この試合は負けたことがショックというよりも、自分の慢心がショックな日として記憶に残っています。自分の慢心がチームの勝利に関係ないことは本当にわかっているので安心してください。
ちなみにその後、そのTシャツは1回も着ていません。


9月14日 甲子園/阪神vs巨人

リーグ優勝を決めた日。
この日の観戦日記は別途書いています。

「その日」の記録 - イチニクス遊覧日記

この日の9回、岩崎選手がソロホームランを被弾した場面で、8月29日のことが頭をよぎりました。
けれど8月29日のことを引きずるような選手でもないし、チームでもないし、そもそも「ある」としたらソロなので、と、この日はそれほど焦らずに大丈夫だと思って見ていたような気がします。
ただし一応、部屋着には注意しました。

大山さんの涙についてのこの記事もよかった。
www.nikkansports.com


10月1日 マツダスタジアム/広島vs阪神

3点差で迎えた3回の裏、マウンドにあがった岩崎選手は1点差まで詰め寄られたものの、最後は1番小園選手を空振り三振に抑えて3アウト。
キャリアハイの35セーブ目をあげ、今年の「最多セーブ賞」が確定した試合です。

ドキュメンタリー本を読み「クローザーってかっこいいな」と思って野球に興味を持った自分が、最初に好きになった現役の、抑えの選手が岩崎選手でした。
2022年も2023年も、開幕から守護神というわけではありませんでしたが、チームが困ったときに、頼れるのが岩崎選手ということなので、それも守護神の形だよなと思っています。

9回は点を取られたって勝てばいいんだと、NPB史上最多セーブの記録を持つ岩瀬さんも言っていました。9/14の9回も、10/1の9回も、岩崎投手らしい、不敵なセーブでした。


10月20日 甲子園/阪神vs広島(クライマックスシリーズ

8月に梅野選手が死球によって左手首を骨折して以降、ほぼフル出場と言ってもいい勢いで捕手を務めてきた坂本選手が、日本一を決めた後のインタビューで「一番緊張した」と言っていたのがクライマックスシリーズでした。

その第2戦目、1-1で迎えた9回、大山選手の出塁、ノイジー選手への申告敬遠、そして坂本選手が四球を選んで2アウト満塁となった場面。今シーズン中は特に寡黙なイメージだった坂本選手が、次に打席に入る木浪選手を指差し雄叫びを上げました。
そして、その期待に見事応えた木浪選手のサヨナラ打によって日本シリーズ進出へ王手をかけるという、熱すぎる展開が最高な試合でした。

「恐怖の8番」という異名がすっかり定着するほど、勝負所に強い選手となった木浪選手の「明日決まりますけど」という強気なヒーローインタビューも良かったです。(実際翌日に日本シリーズ進出が決まり、木浪選手はCSのMVPに選ばれました)


11月1日 甲子園/阪神vsオリックス日本シリーズ

日本シリーズはどの試合も面白かったのですが、1試合を挙げるならやはり岡田監督の采配が印象的だった4戦目だと思います。
才木投手の好投もありながら、チャンスを逃す展開が続き7回、サードファンブルも絡んで同点となったところで、すぐさまサードをムードメーカーの糸原選手に交代。

さらに8回表、石井投手、島本投手と継投し2アウト2、3塁、均衡していた流れがオリックスに傾きかけたところで、なんと6月15日以来の1軍登板となる湯浅投手を登場させます。

湯浅投手は、なんというかめでたい雰囲気のある選手で、登場すると場がパッと明るくなるような魅力があると思っています。もちろん、ファンの期待も高い選手で、球場の空気もガラリと代わったのが画面越しにも伝わってきました。
こういった流れを変える力への期待、そして今年、けがが重なってしまった湯浅投手の「来年」につなげるための采配でもあったのだと思います。

日本シリーズについては別途書いています。
日本シリーズのあった1週間(前編) - イチニクス遊覧日記
日本シリーズのあった1週間(後編) - イチニクス遊覧日記



以上、15試合でした!

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野球を好きになって早々に、年間143試合とインタビュー、取材記事、球団公式youtubeSNSなど、公式に提供される情報だけでも、すべてを追い、すべてを記録するなんてことはできないなと悟りました。

だからせめて、自分がこの年のどんなことに感動したのかだけでも、ちゃんと覚えておきたいなと思っています。

今のところ、自分にとっての野球は、切り口や、視点によって見え方の変わる「大河ドラマ」で、この感想もその1視点にすぎません。
来年からは、この経験をもとに、きっとまた違った見方ができそうなのが楽しみです。