リップヴァンウィンクルの花嫁

監督:岩井俊二

岩井俊二作品を見るようになったのは高校時代のことで、その後、映像系の学校に進学したのもその影響があったような気がする、というくらいにはとても好きだった。
とはいえ長らく見返していなかったし、いまあの世界観に触れることで自分がどういう気分になるのか、少し怖いような気もしつつ見に行ったこの映画に、
結論からいって、わたしはちょっと胸焼けしてしまった。
3時間あるとても長い作品なのですが、物語は前半と後半でかなり雰囲気が変わるため、2本立てのような印象を受けました。
前半は、主人公「七海」が出会い系で知り合った男と結婚をして、別れることになるまでのお話。
声が小さくて、常におびえているような印象を受ける七海が、周囲から軽んじられている様子はとてもしんどくて、でも彼女にとってはそれが処世術なのだろうということもわかる、ハラハラする展開だったと思います。
そして後半は、1人になった七海がある出会いを通して、人に求められるということを知るお話、だったように思う。
個人的には前半は辛いなと思いつつも興味深く見ていたのですが(その切実さは「恋人たち」の主婦パートにも近いところがあったと思う)、後半はちょっと、ファンタジー過ぎるのではないかと思ってしまいました。
七海は自ら選択してそこに行ったわけでもないし、あそこで彼女を必要としたのが真白さんでなくても、流されていたように見えた。
彼女の母親に会いに行くシーンでの肩だけ落とした喪服のように、彼女は結局何も選んでないんじゃないか、と思えたことがひっかかっています。

何も選ばない、ということが悪いことではないのだけど、七海もまた真白さんを求めていたのだとしたら、彼女の母親の言葉に疑問を抱かなかったのかな? と思っています。
前半であれだけの失望があって、ようやく自分を必要としてくれる存在に出会ったのだとしたら、その人のことを、もっと自発的に知ろうとしたりするんじゃないのかなあ、などと、少しテーマの近い「キャロル」のことを思い出したりしながら考えていました。
ラストシーンの、新しい生活の始まりはとてもきれいだった。けれどそこでも他者を受け入れてしまう(家具を受け取る)彼女が、この先自発的に何かを求めたりすることがあるのか、よくわからないなと思ってしまいました。

あまり関係ないのですが「リリィ・シュシュのすべて」にでてきた死因「ダツ」が私はトラウマといってもいいほどにこわかったのですが、この作品にも毒をもつ海洋生物がいろいろ出てきて、監督は海洋生物が好きなのかな、と思ったりもしました。