「髑髏城の七人 Season月 上弦の月」感想まとめ

ついに2月がきてしまいました。
2月は初志貫徹で下弦に捧げると決めたため(&有休が足りなくなりそうなため…)、多分上弦にはもう行くことができません…。なので下弦の自分内最終回を見る前に、私が見た限りの上弦の感想をまとめておきたいと思います。(って書いていたら友人がチケットを当ててくれて下弦の千秋楽に行けることになりました……圧倒的感謝……)
私が見た上弦は12/19ソワレ、1/7マチネ、1/26公演、の3回です。
TLを見ていると上弦については公演のたびに様々な感想が入り乱れており、どれが本来の上弦の姿なのかはよくわかりません。でもその定まらなさこそが上弦なのかもしれない、ということで私が見た3回を通しての印象を書いておこうと思います。円盤が出た時に読み返せるように…。

天魔王

私の上弦における推し、瞳の中のセンターは早乙女天魔王です。
早乙女さんの天魔王を見ると、毎回意識が奪われすぎるというか、気になってしまってついつい視線というか双眼鏡が向いてしまう求心力がある。これが人の男の力……怖いです。
チャーミングで、冷酷で、わがままでさびしがり。そういうイメージが入れ替わり立ち替わり現れるのだけど、言葉で定義しようとしてもするりと形を変える、玉虫色の天魔王だな、と思う。
12/19に見た時は扇子遣いがとてもうまくて、顔隠したまま何を見ているのか気になって、その扇子の向こうを双眼鏡で見ようとしているこちらが覗かれている…みたいな怖さがありました。
私、早乙女さんの舞台を生で見るのはこれが初めてなんですけど先日初めてゲキシネで「ワカドクロ」を見たら発声がぜんっぜん違ってて驚いたんですよね。この声の使い方も巧みで、
2幕の蘭兵衛との対決シーンで「お前のことだけを」っていうところで急に素の声に戻る(1/26が特に印象的だった)のが怖くて怖くてでも愛しくて仕方ないって感じでした…。
私は、手に入らないなら全て壊してしまえ、という意図で天魔王は蘭兵衛を呼び寄せたのかなと思っています。
本当はエゲレスのことなんかもどうでもよくて、全部ぐちゃぐちゃに壊してみたかった。自分が天にそうされたようにーー(私の妄想です)。
その狂った部分をきっと殿には見透かされていて、六天斬りで怖がって見せるのも、命に執着しているというよりは、もしかして、殿に罰を与えられることを待ってたりするんじゃないですか…と思った(完全なる妄想です)。
私の見た天魔王はそういう天魔王だった気がするけど、きっと「お前にはわからんよ」って言われる気がします。

捨之介

下弦の捨之介は、お調子者で懐が深く、しかし一人で諸々背負いこもうとする、少年漫画やニチアサ特撮ヒーロー像に近い捨だと思います。
だからこそ、上弦の捨之介を見た時には驚いた。
何となく浮世離れしているというか、ここではないどこかにいるようなイメージが上弦捨之介にはある。上弦が太陽なら下弦は月のようだなと思う。
線が細くて美しくて、なのに無界に向かう場面での女性慣れしてない感じ…!(下弦捨はここすごく楽しそうなので余計に対比が気になる)
誰にも腹を割ってない感じのまま後半に差し掛かり、六天斬りの場面は、追い詰めている側のはずなのに、なぜかガラス細工にひびが入ってしまったみたいな取り返しのつかなさを感じました。
だって宮野捨を見慣れつつある目には細いんですよすごく! そして佇まいからして、どこか儚い。ただ、その儚さの理由が、正直なところ、私にはよくわからないんですよね…。
いろんな方のレポを読んでいると、私が見た3回とはイメージがかなり違うな、と驚くこともあるので、上弦の捨之介については円盤でもう一度ゆっくり振り返りたいなと思っています。

蘭兵衛

下弦蘭に取り憑かれているため、上弦でも蘭兵衛をついつい見てしまうのですが、上弦蘭ね、ほんと下弦蘭とは別の生き物です。
「いい調子だなぁ髑髏党」っていうあの登場第一声からして「よっまってました」って声かけたいくらいの男っぷり。現代だったら天気のいい日は屋上で昼寝するタイプですよね。女にはもてるけど実は奥手。そんな感じの硬派なヤンキー蘭兵衛さん。
そんな彼が、天魔王に名前を呼ばれただけで、数珠を握りしめ心ここに在らずになってしまう、そのギャップが上弦蘭の魅力かなと思います。
1/7マチネの印象では、「殿の夢を」で完全に堕ちる印象だった。なので、何となく上弦蘭は殿はもちろんのこと、殿の野心とともに戦場を駆けるということそのものに取り憑かれてるのかなと感じました。
なのであの「楽しいなぁ」も「やはり自分は外道であった」という「諦念」の声に聞こえた。
では、なぜ天魔王は蘭兵衛を引き込もうとしたのか?
下弦天は「森蘭丸」が天になるために不可欠なパーツだったと思ってそうなんだけど、上弦天にとっての天はやはり「殿」だと思うんですよね。
だから「殿に成り代わって、殿の愛したお前を(もしくはお前たちを)めちゃくちゃにしてやる」という思惑だったのだとしたら、怖すぎるなと思いました。
三浦さんは目が大きいので、2幕ではあのらんらんと光る目の印象が残ります。あの目を閉じた先で、彼は殿に会えたのでしょうか…。

兵庫

個人的に、上弦のもう一人の主人公は兵庫なんじゃないかという気がしています。下弦は捨之介が兵庫たちの側にいるんだけど、上弦の捨之介は両者の間で揺れている存在に見えるから、かもしれない。
そして須賀さんの兵庫、引力がすごいんですよね、下弦でいう宮野さんと同じ、太陽みたいなタイプ。
2幕、天魔王と蘭兵衛が無界を去った後、下弦はむしろ「狸穴」のシーンという印象なんです。そこから、各自の決意を述べるシーンへと移行する。
けれど上弦の場合、ここから「雑魚だと思ってる連中の力」と宣言するまでずっと兵庫のターンに感じるんですよね。
上弦の兵庫について、最初は正直「太夫と付き合うようには見えないな…」なんて思ったりもしたんです。でも、だからこそ、この場面で2人の関係性が変わるのがよく見える。
仲間とわいわいやりながら、極楽太夫に憧れて追いかけ回して、でもそれはずっと一方的な関係だった。けれど、あの場面で、あの2人は初めて個人として支え合う関係になる。
そこからの、ラストシーンですよ。ラストのセリフが下弦と違うのもとてもいい。背伸びをしてきた兵庫だからこそのセリフで、そんなふうに「兵庫」の成長物語としても見れる。
下弦の場合、割と最初から兵庫と太夫はお似合いに見えるし、蘭兵衛が兵庫に向かって太夫を押し出したりもするので、まんざらでもない2人なんですよね。ラストシーンもどちらかというと「太夫が兵庫に支えられる」場面に見える。それから、襲撃後の場面も、間に「狸穴のシーン」が入ることでその後の「みんなの決意」へのワンクッションができている。
だから下弦では、兵庫は「成長するキャラクター」というわけではないんですよね。成長するのは霧丸に任せている感じ。
これはどちらが良いとかではなくて、強いて言えば下弦はそのように「役割分担があることでメインのストーリーがわかりやすい」のが魅力で、上弦は「日によって印象が変わる複雑なバランス」が魅力であることの、一因なんだと思います。

アイドルグループに例えると、明るくてちょっとドジで、でもガッツのある子がセンターのパターンが下弦で、影があるけど放っておけない、目を惹く子がセンターのパターンが上弦って感じ……。(あくまでも役のイメージの話です)
上弦の月下弦の月は、そんな風にチームのあり方からして異なっているのがめちゃくちゃ面白いな、と思っています。

余談ですが、そんなわかりやすさが魅力でもある下弦の月になんでこんなどハマりしているかというと、推しがでているのはもちろん、そのわかりやすさの中にも変化する部分はちゃんとあって、特に天魔王と蘭兵衛について解釈(というか深読み)のしがいがあるからかな…と思います。
下弦天、前まで殿よりも天という力を求めてた印象だったのに2/3あたりから殿への思いを滲ませてきたし、蘭のサービスもとどまることを知らないしでどうなってしまうのでしょうか。次の登城は14日です。月が沈むのが怖い。

「勝手にふるえてろ」/アンモナイトを抱えて沈む

監督:大九明子

《内容に触れています》

なんとなく、好きな映画だろうなと思って見に行って、やっぱり好きだったわって笑いながら見てて、でもちょっと背中がざわざわして、
主人公、ヨシカが「あぁぁぁ」ってなる場面でびゃって涙が出て以降、しゃくりあげないようにするのが難しいくらいずっと泣いていた。マスクをしたまま見ていたのだけど、マスクがびしょぬれになって、映画館出てすぐに新しいマスクを買ったし、翌朝は目が腫れていた。好きとか嫌いとかじゃなく、こんな風に殴られた映画は、ちょっと久しぶりかもしれないなと思う。私の中では「マグノリア*1ブルーバレンタイン*2「犬猫」*3などと同じ箱に入る映画、でした。

私が「勝手にふるえてろ」の何にそんなに殴られたのかというと、自分もまた、ヨシカのように、自分の中のお気に入りの思い出を、できるだけ鮮明に思い出すという作業に勤しんでいたことがあるからです。もう随分昔のことだけど、ゴポゴポと沈んでいく感じは身に覚えがありすぎて、やっぱりそれみんなやるんだな! と思った。アンモナイトはその重石。

ヨシカにとっての「潜りたい思い出」は、学生時代に片思いをしていた「イチ」との思い出だ。
他人から見れば些細な、二言三言の会話を、まるで運命のように大切にして繰り返し潜り続けて、10年が経っている。
そんな静止画像のような10年が、ヨシカが「ニ」と名付けている男性から、告白されることで再び動き出す。簡単にいえば「調子にのった」ヨシカは今の自分ならイチと関係性を築けるのではないかと、いろいろとやばい画策した末、ついに彼と2人で会話する時間を手に入れるんですよね。
でもね、ヨシカがずっっと大事にしてきたその「世界」はガラス越しで、向こう側から見たら大したものではなかった。
海だと思っていた水槽にヒビが入り、ヨシカはもうあそこには潜れなくなってしまう。
その「世界」との決別の朝が、最高に最高に最高に切なくて苦しくてしんどくて美しくて最高に好きでした。

私の10年は無駄じゃねえぞバーカ!って私も思ったことある。
でもいつか、そこに潜らなくても生きていける自分に気づく日が来る。その思い出にすがることを自らのアイデンティティにしていたのに(&そのことを指摘されそうになるたび他人を威嚇してきたのに)、時間が解決するなんて都市伝説だと思っていたのに、まるで水に落とした角砂糖のように、消えてしまったものは戻らないんです。
目が醒めてよかったね、不毛な片思いに見切りをつけて、現実のコミュニケーションをできるチャンスに恵まれてよかったねって人は言う。たぶん。その方が人生だもんねというのもきっと正解だ。
でももう二度と、イチを思い続けていたあの熱は戻らないのだということが私は寂しかった。
できることなら、ヨシカにはイチを好きだったことを後悔してほしくないなと思う。たとえ滑稽でも不毛でも、好きのエネルギーがあったからこそ生きられた時間というのもあるはずだ。
いびつかもしれないしどちらかといえば崇拝に近かったその感情は、でも誰かに笑われていいようなものではないはずだし、ヨシカにはその上に立って新しい、ガラス越しではない世界を手に入れて欲しいなと思います。

ヨシカには色々と問題もあるんだけど、とりあえず就職してたことと、くるみちゃんが夢じゃなくてよかったなと思いました。
「二」とうまくいくかはさておき、ヨシカがくるみちゃんにちゃんと謝って仲直りできるように、と願っています。

終盤のヨシカのブチギレについては責められても仕方なしとは思うけど、自分が一番気にしてて秘密にしてねって言ってたことをバラされたときに「ハァーーー??」ってなるのはわかる。けれど、くるみちゃんがそれをよかれと思って「二」に言ったのもわかる(いきなりラブホとかやめてよねっていう釘さしだと思うし)。なので、ちゃんと腹を割って話して、2人には仲直りしてほしいです。

あの世とこの世の間みたいな、お昼寝シーンがとても好きでした。

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

「髑髏城の七人 Season月 下弦の月」12月頭と後半&年始の比較と感想

髑髏城です。まだ書くのかという感じですが、私のTwitter TLにはこれから初見の方もいるので、ネタバレっぽくなりそうなことはこっちに書こうと思いました。あってよかったはてなブログ。というわけで、2018年も3日昼の下弦&7日昼の上弦を経て、ますます沼の広さに意識を奪われていますが私は元気です。
髑髏城の何がそんなに沼かって、最初は物語とキャラクターの面白さに尽きると思っていたんです。でも、上弦を見て、役者さん&チームごとのキャラ解釈を見るのも楽しいものだと気付いたことで、バーンと楽しみの枠が広がった感覚がありました。
でもね、たぶんそれどころじゃないんですよね。
私は髑髏城自体、下弦が初見だったのですが、その後色々な方の感想を読んでいるうちに、そうか、上弦下弦だけでなく、これまでの髑髏城との比較という楽しみもあるんだな……と気づかされました。中でもワカドクロというのはすごいらしい。そんなわけでまずはワカドクロを見ようとタイミングを計っていたのですが、今月末にゲキシネでかかるということを知り、そこで見ることに決めました。
正直、月に夢中になっている今の楽しい最高大好きな気持ちが、ワカドクロを見ることでどうにかなっちゃうんじゃないかと怖い気持ちもあるんです。だけど月が終わってから見て記憶を上書きされてしまうのも辛い。なので2月を残した1月末のタイミングで見れるならちょうどいいような気がしています。
なので、現時点の、月の感想をもう一度書いておこうと思いました。

※現時点での私は、上弦下弦どっちも好き、だけど下弦廣瀬蘭にはまっているので下弦を多めに通っています、でも上弦ももっとみたいよママ…というところです。

《以下思い切り内容に触れている&妄想多めです》

捨之介

12月のはじめ(12/2マチネ、12/9ソワレ)に見たときと12月の終わり(12/27ソワレ、12/3マチネ)に見た時ではずいぶん印象が違っていた。すごくよくなっていました。
まず捨之介にめちゃくちゃ安定感が出ていた。THE主人公。
さすがの宮野さんなので、最初に見た時から台詞回しには安定感があったんだけど、さらに盛ってきてる。宮野真守の捨之介になっていた。常に楽しそうで、頼り甲斐がある兄貴で、ちょっとチャラくて、懐が深い。
初見でちょっともたつくなと感じた「底抜けのバカってことだよ!」の部分も先に底を見せる身振りを入れてきたりとかでちゃんと笑いどころに変えていた。贋鉄斎の工房を訪れるシーンも、贋鉄斎のボケのいなし方に遊びを入れてきてる。でも決して悪ノリじゃなくて、捨之介と贋鉄斎の関係って昔からこうだったんだろうな、だからこそ協力してくれるんだなって説得力が出ている…。人徳人徳。

それから1幕終盤の、これから1人で髑髏城に乗り込もうというシーン。
捨之介さん、蘭兵衛の頭を、ポンポン、ってするんですよね…。これだけで、あっ捨之介は3人の中で兄貴分みたいな存在だったのかなってイメージに変わった。そして蘭兵衛も極楽に「いい男を友達にお持ちじゃないですか」って言われてすごく嬉しそうな顔をする…。
そんな兄貴分だからこそ、彼は天魔王を「止めに行く」と言うし、止めることができると思っている。甘ちゃんだなと言われようが(そんなセリフはないけど)、ああ甘ちゃんだ!って笑って見せそうな捨之介でした(歯並びが良い)。

でも、2幕になると、そんな捨之介の甘さが露呈してしまうんですよね…。
そんな捨之介を救うのが霧丸です。霧丸は、たぶん愛されて育った子で、きっと自分を守ってくれた人たちに近いものを捨之介に感じたんじゃないかなと思う。だからこそ、自らの恨みの大元に彼が関わっていることを知ってなお、捨之介を信じると決める。
だけど天魔王はその甘さを拒絶するんですよね。たぶん天魔王にとって捨之介の甘さ優しさは「屈辱」だったんじゃないかな。
でも捨之介にはその受け取られ方が想像できない。だからあのラストにショックを受け、「止められなかった」自分の無力さにうずくまってしまうのではないか、と思いました。

霧丸に支えられながら髑髏城を脱出しようとするところで「俺がひきつける。皆は先に行け」みたいなことを言い出す捨之介。12月27日のときはちょっと泣いてたような気がする。
兄貴分としてかわいがっていた(つもりの)天魔王を「自分が殺した」という事実を受け止めきれないという様子にみえました。そういうとこ、本当〜に甘いんだけど、そこで霧丸が叱咤するのがよい。
まさに「お前がお前を信じられなくても、お前を信じる俺を信じろ!」(下弦の2人は本当グレンラガンのカミナとシモン)だなと思いました。
兄貴分と子分みたいな関係性だった2人の力関係がいつの間にか対等になってる。大きくなったね霧丸。。。
本来なら、感情的なクライマックスはラストの水辺で家康に「だったら好きにしな」と言うシーンに持ってくるものなのかもしれないし、最初に見たときはそう感じました。けれど、あそこは霧丸たちのカットインに力点があるので、余韻を残すならこちらだとこのシーンにテコ入れしてきたのかなと感じた。
水辺のシーンは「精も根も尽き果てた」という状態に近く、そこに霧丸が助けにくるのが捨之介にとっては「人を信じるということ」が改めて報われた、「人を信じる自分」を信じていいんだと改めて思える出来事になったのではないでしょうか。
うーーーん、捨と霧の関係性、本当に尊い

天魔王

一方の天魔王、同じ脚本にも関わらず上弦と下弦が全く違うストーリーに見えるのは、早乙女太一さん、鈴木拡樹さんそれぞれの天魔王解釈の違いによるところが大きい。
鈴木さんは憑依型と評されることが多いようですが、そう見えるくらいに、ものすごく努力家なんだろうなと思うんです。自分の使えるもの(特に表情筋とか)全部使って役に尽くしている感がある。
だから天魔王もすごく丁寧、という印象になってきている、気がします。気がします、としか言えないのは天魔王自身が「天として振る舞おうとしている」存在なので境目が見えないんですよね…。
鈴木さんの天魔王はたぶん、恐ろしく、残酷で、冷酷無比な天魔王に、なりたいと願う小狡い男。
そのメインの部分は変わっていないのですが、12月末に見た時は最初に見たときより「悪」の要素が強まっていると感じました。

たぶん下弦の天魔王は自分こそが「天」の才を持っていると信じていて、そう評価されるべきだと思っているのに最後まで殿が自分の才を認めてくれなかった→ならば俺が、という発想で天魔王になるんですよね。
だから蘭兵衛を呼んだのも「天はそうするものだ」と思ってるからなんじゃないかな…。12/27ソワレの「待っていたぞ、蘭丸」のシーン、破顔といっていいほどに笑っていて嬉しそうで、アッこの人もしかして殿のロールプレイしてるのかな?って思いました。怖い。
「仲間の命乞いか」と言いながら鼻で笑う(ここ上弦とすごい違うポイント!この差がどちらも好き)のは、とかなんとかいってお前は殿(≒天である自分)を選ぶだろうと余裕ぶってるのかなという気がしてきます。

なので、天魔王はずっと「蘭兵衛は俺に従っている」と思って接しているんですけど、ここに認知の歪みがあるんですよね。蘭兵衛にとって天魔王はただの触媒に過ぎず、口説きの後はきっと「人の男」としか見てない。

私がすごく好きなのはクライマックス(クライマックスだらけでどこかわからないですが、蘭兵衛VS天魔王&生駒のシーン)へ移行する会話の部分です。
「この城は捨てる」と天魔王が言った瞬間、蘭兵衛は天魔王を切り捨てようとする。天の夢を叶えるために戦うことしか考えていないので障害物に成り下がる。
そして天魔王は「兵は置いていけ」と言われた瞬間、自分が蘭兵衛にとって天でもなんでもないことに気づかされてしまった、と感じた。

上弦と違って下弦の無界屋襲撃シーンは圧倒的に蘭兵衛が狂ってるんですけど(鈴木天は軍師タイプなイメージ)、下弦はここでちょっと天が気圧されて見える。殺陣の振り付け違うのかなって上弦と見比べて見て思うんだけど、やっぱりこのシーン、下弦天はあんまり楽しそうじゃなくなってる、気がする(12/2の時点ではもうちょっと楽しそうだったはず)。
なので、もしかすると、ここあたりから蘭兵衛の優秀さを思い出してしまったんじゃないかなって思っています(完全に私の妄想です)。それはつまり「自分と違って蘭兵衛は殿に評価されていた」と思い出すことでもあるんですよね。殿…。

蘭兵衛を得て天に近づいたつもりが、蘭兵衛によって天ではないことを暴かれた末の捨之介との対決。
捨之介に「俺の背中には仲間がいる」と言われた瞬間、口説きの「仲間の命乞いか」と言う場面とは打って変わって憎くてたまらないといった表情が見えます。
一人で頑張ってきた天魔王にとって(上弦と違い、たぶん生駒との間に信頼関係もなさそう)それは屈辱でしかなかったのではないでしょうか。そして一矢報いようとした末に掴んだ捨之介の刃を自分に向けたのは、打算だと思いますが、それが捨之介には効いてしまうんだな…。
(ちなみに鈴木天はあんな派手に去っておいて、実は生き延びて次のチャンスを狙うしぶとさがありそうな気もします)

ーーというのが年末年始を経て鈴木天に感じたことでした。
27日と3日という連続した公演で一番ブレがなかった。だからこそ「まとまってる」と感じてしまうところもあるんだけど、その器用さがまた天魔王の切なさにも繋がっている気がして私は好きです。
殿が蘭丸を贔屓せずに天魔王のこともちゃんと褒めてあげてたらこんな風にはならなかったんじゃないですかね〜と思う。

ただ、1つ納得いかないのが「明智をそそのかしたのも〜」という捨のセリフ。
それはほんとうに天魔王の仕業だったのか、ここはまだ考え中。

蘭兵衛

蘭兵衛についても、12月の頭と末ではかなり印象が変わっていました。
何より殺陣が格段にうまくなっている…!
廣瀬智紀さんって舞台挨拶やブログの印象ですごくふわふわした人、というイメージがあり、だからこそそういう役を振られることも多かったと思うんですが、この蘭兵衛はすごく「当たり役」だと思うし、確実にターニングポイントになる舞台だと思うので、今この瞬間を見逃せないという気持ちでいっぱいです。本当に目が足りない。
12月の頭に初めて見たときは、きれい!儚い!闇落ち!という感じで夢中になっていたのですが、12月後半ではかなりギャップのある役になっていました。

前半の無界の里シーンでは、女の子たちの輪にもすっと入っていける、柳のような男性というイメージで(蘭兵衛さんってきれいな顔してるよね〜って女子たちに言われてそう)、ここは初期から変わっていないと思います。
それなのに初めて「天魔王」に会うシーン、名前を呼ばれてハッとするところでスイッチが切り替わり始める。上弦は数珠を握って耐える「葛藤」に近いと思うんですけど(そこが人間くさくて良い)、下弦はむしろ失われていた記憶が蘇ってしまった、に近い印象(あとこのシーンは、里に帰る際の蘭兵衛の走り方がとてもきれいなので好きです)。

捨之介を見送った後、心配した極楽を抱き寄せ頭をぽんぽんとしてみせる、その時の目。それ頭ぽんぽんするときの目じゃないから!!というくらい怖い目を君はしていた…(12/27)。
だから黄泉笛のシーンはわりともう口説かれる気満々に感じます。ここの殺陣はすごく飛ぶようになってるんですけど半ばこの世ならざるものになりつつある感じで良い。
そして白い彼岸花花言葉が(諸説あるようですが)
「思うのはあなた一人」
「再会を楽しみに」
とのことで。蘭兵衛さん、、、。

そして2幕冒頭。殿の片鱗を求めて髑髏城を訪れた蘭兵衛の前には、天魔王を触媒にして殿が現れたんじゃないかなと思います。
なぜなら、無界の里襲撃シーンのラスト、門の前に立って「咆えろ咆えろ」と笑う天魔王の後ろで、蘭兵衛はずっと何かを目で追っているんですよ…。これは12/27も1/3もやっていました。
つまり蘭兵衛は天魔王なんて全然見ちゃいなくて、その目には多分、殿が見えているんじゃないかなと思います。殿と駆けた戦さ場を思い出して「楽しいなぁ」と呼びかけるのは、そこに殿を感じられるからなのでは。殿の亡霊に取り憑かれ、亡霊となった蘭兵衛さん…。

そんな蘭兵衛が最後に天魔王をかばう理由について考えてるんですけど、、、最後に天魔王に目をやられるじゃないですか。あれで、もしかして、殿の亡霊も見えなくなって瞬間正気を取り戻したということだったりするのかな。。。ここはまだ考え中です。
1/3は、目を切られたすぐ後、「殺す、殺すッ」って呟きながら天魔王を追うようになっていました。
でも27日のときはここが「殺せ」に聞こえて、なんていうか、殿が見えなくなって自分のしてしまったことに気づいた、とかだったら恐ろしいなと感じました。かなり妄想ですけど、、もう私も蘭兵衛さんに取り憑かれてしまっているので…。

後、廣瀬さんは瞬きをしないのが得意みたいで、1幕では普通に瞬きしてて、2幕になると全然瞬きしないので本当に亡霊感がある。そして階段落ちの後の死に顔がいつも美しいです。

霧丸と極楽太夫

霧丸、霧丸もすごいよくなっている。。。捨之介との距離がぐっと縮まっています。
2幕、「俺を騙したな!」と捨之介に詰め寄るシーン、避け続ける捨之介の言葉を信じよう、と決める瞬間の、胸倉掴んで胸に顔を埋めるみたいなとこ、最高にかわいい。。これは宮野さんとの身長差があってこその構図だなと思います。
そしてさすがの霧ちゃん、いちど信じたことは貫き通す男なので終盤の頼り甲斐がはんぱないですね。霧ちゃんがもう決めたというならその夢は叶うと思う。応援しています。捨のことは頼んだ。

それから極楽は、蘭兵衛と兵庫、それぞれとの関係性が少し変わったように感じた。
極楽から蘭兵衛に対するラブは確実にあったと思うけど、蘭兵衛はどうか…ちょっとよくわからないですね…。あの人、殿のことしか考えてないんじゃないですかね。
兵庫に対しては終始まんざらでもない様子にみえる&蘭兵衛もそれをニコニコ見ている、ので、極楽は蘭兵衛に対して、かつては惚れていたけれど今は姉のように接している、って感じなのかなと思っています。
そして12月頭との変化といえば、蘭兵衛の最後に、蘭の手を必死に拭うという仕草が入っていました。
きっと極楽は、彼を「生」の側に戻すことを自分の役目みたいに思っていたんじゃないかな。でも力及ばなかった、という思いに感じられて切ない。
そして、ラストの兵庫のプロポーズを受けて、本当に泣くのをみたのは12/27が初めてでした。
ここ、上弦では兵庫に泣かされるんですけど、下弦では極楽に泣かされるシーンになっていたと思います。

上弦と下弦

どっちがいいとかじゃないんですよね……どちらにもいいところがある。
ただ明らかにここはこっちが好み、と感じるところもあって、
無界の里に向かうシーンの捨(イントロのチャッ! チャッチャッ! ってところで傘を構えてステップ踏む捨!!)、狸穴&おきり(あぐらからの土下座→カーテンコールで狸穴に手を振るおきりで毎回泣けてしまう)、贋鉄斎の「ゆぅうう~げん!」とかは下弦が好き。

でも生駒の最期(これは早乙女天魔王だからこそなので、下弦にはあわないけど)や、兵庫のプロポーズのセリフ(これもキャラの年齢感と繋がってるけど)は上弦が好き。

いやでもね、どっちもいいんだよ…。どっちもいいのでどちらかを見た人にはもう片方も見て欲しい、と思っています。
そして私は早く他の髑髏城も見なくてはならない…。

月髑髏、まだ見れます!

下弦の月はまだチケット買える日がありますし、上弦もたまに戻ります!
あと前日販売&当日券販売もあってこれが意外と良い席でたりもするので(1/7の上弦は前日webで行きましたが16列目でした)オススメです。そして見た方はぜひ私に髑髏城のお話をしてください…当方切実です。
ONWARD presents 劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月 Produced by TBS|チケット情報・販売・予約は ローチケHMV[ローソンチケット]

2017年に見た映画ベスト10!

今年映画館で見た映画は多分43本。絶対に好きだろうなと思いつつタイミングが合わずに見逃してしまった映画もたくさんあったにもかかわらず、この43本の中に今年ベストにあげたい作品もたくさんあって、本当に豊作の年だったと思います。
それから個人的には、夏にタブレットを購入したことで家で映画を見る楽しみを思い出した年でもありました。今までタブレットで映画見る生活とか全然想像できなかったんですけど、購入して再生してみたら驚きの快適さだった…。というわけで今はAmazon primeNetflixを使って映画を見たりもしています。来年は海外ドラマもいろいろ見たいなと思ってます!

そんなわけで今年の「個人的に好きだったベスト10」を書いておきたいなと思います。

10位「アトミック・ブロンド

シャーリーズ・セロンに忠誠を誓いたくなる映画。とにかくシャーリーズ・セロンのアクションが素晴らしかった。女性が主役のアクションもので、ここまで「強い」感を前面に押し出しているものって今までほとんど見たことがない気がします。とにかく強いしその強さが才能に裏打ちされたものというよりも鍛錬によって磨き上げられたものという説得力があるのも良かった。
お話的にはもう一声、という気もするのですが、実はこの映画を見た数日前に「裏切りのサーカス」を見ていたため、東西冷戦時代ものの気分だったというのも作用しているかもしれません。「裏切りのサーカス」最高だった。

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9位「マグニフィセント・セブン

適材適所ものが大好物なので本当〜に楽しかった!
とにかくクリス・プラット演じるギャンブラーのファラデーが最高にかっこ良かったです。あの体格で笑顔が可愛いのが最高だし、道化役ポジのキャラが最後…みたいなのたまらないでしょ…。あとグッドナイト&ビリーの2人組も最高。
そして夫の敵討ちのために7人を雇い自らも戦いに参加するヘイリー・ベネットさんの美しさも魅力的でした。
地形の利用の仕方など、タクティクスオウガをプレイしているときの気持ちを思い出したりできて楽しかったな。

8位「We are X」

Xの事あまり知らないのになぜ見に行ったのか、きっかけを忘れてしまったんですが、とにかく本当に見てよかった1本。今までYOSHIKIの事誤解しててごめんねって気持ちになったし、TOSHIの洗脳騒ぎ、解散、HIDEの死がこんな立て続けに起こったという時系列が今まで把握できていなくて、この時期のXファンの心境を思うといたたまれなくなった。でも、それでもついていこうと思う熱量がXのパフォーマンスや楽曲にあることもよくわかったし、その根源の部分に幼い頃のYOSHIKIの繊細さがあるのも魅力だなと思えた。紅の歌詞が書かれたノートの中学生男子そのままの文字の愛おしさよ。
TOSHIの洗脳騒ぎについてもがっつり触れていて、彼が参ってしまった理由も何となく察することができると同時に、洗脳から戻ってくることができるんだといういい例の一つだなと心強く思った。
見ていた映画館では、オープニングでいきなりヘドバンし始めたお客さんが居たんだけど、本編始まると同時にスッとなったのもよかった。映画に出てくるXファンは皆、Xのことが大好きなんだっていう顔をしていて、ファンの姿を捉えた映画としてもとても良かった。

7位「新感染」

いわゆる(?)速いゾンビものです。新幹線(のような釜山行き特急列車)にゾンビになる菌の保菌者が乗り込みんでいたことで、列車内にゾンビが大量発生してしまうというパニック映画。車両を移動するハラハラ感と、あちこちからゾンビの性質についてのヒントを得て対策をしていく見せ方、反発していた2人のタイプの違う男性が協力するようになるまでの過程、など複数の要素をスリリングな物語上で展開していくのがとても見事で楽しい映画だった。
この映画を見た後しばらくゾンビ映画ブームが起きたのもいい思い出。(28日後、28週後ゾンビランドworld war Z、ウォームボディーズ等を見ました。特にゾンビランドが面白かったな)

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6位「ドリーム」

NASAで働く「計算係」の女性の物語。黒人女性というだけでその才能が正当に評価されないという環境がいかに当事者以外にとって軽んじられていたのかがよくわかるとともに、彼女たちの活躍を明るく描いていくストーリーテリングの魅力に溢れた映画でした。
私が特にグッときたのはドロシーの物語。主役となる3人の中では最も年上で計算係の女性たちのまとめ役のような存在なのですが、評価されないという現状を、新規に導入された「IBM」の使い方をいち早くマスターしておくという「努力で場所を掴み取る」人物。有能すぎて尊敬しかない。彼女と、その上役である女性(キルスティン・ダンスト)のやり取りの皮肉さは特に印象的でした。

5位「夜明け告げるルーのうた夜は短し歩けよ乙女

2本まとめてで申し訳ないのですが湯浅監督作品が2作連続で公開されるなんて素晴らしい年だったのでそのありがたさを再び嚙みしめたかった…。
四畳半神話体系が大好きだったのですが、そのスタッフ再集結の「夜は短し〜」は夢のようだった。
ichinics.hatenadiary.com

それから「夜明け告げるルーのうた」は個人的に最高の、5億点出ているシーンがあったのでベストに入れないわけにはいかない。
ichinics.hatenadiary.com

4位「ベイビー・ドライバー

ベイビードライバーのサントラを聞くためにApple musicに入りました(買おうと思ったらどこも品切れだったため)。そのくらい音楽の映画でした。オープニングの「Bellbottoms」を使ったシーンですでに5億点が出ている。
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3位「HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY」

個人的に3はちょっと消化不良ではあったんですが1のヒットを受けてハイローの魅力をこれでもかと詰め込んで見せた2の魅力はやはり色褪せないものだなと思いました。何より全てのキャラクターがキャラクターのまま動いているアクションシーンが全て素晴らしくかっこいい。
特に最後の大乱闘シーンはこれまで見たアクション映画の中で1番と言っていいほど目が足りない名場面だった。
今年見た舞台「TOKYO TRIBE」もとても面白かったのですが、この舞台のラストシーンも少しこの大乱闘シーンにつながる部分があったんだけど、つまりダンスの才能はアクションの振り付けでも活かされるってことなんじゃないかなと思ったりした。
ハイローは今後スピンオフが続くのかなと思うのですがそちらにも期待しています。

2位「メッセージ」

私の好きなSF映画の要素をたくさん詰め込んだ映画だった。「ブレードランナー2049」も良かったのですが、個人的な好きならこちらかな。「スローターハウス5」を読んでからずっと頭に思い描き続けていた瞬間という琥珀の物語を、実写で描くことができるということに驚いたし、「観測者」の孤独を描いた物語としても大好きです。
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1位「お嬢さん」

上半期の時点で今年はこれかなと思っていましたがやはり揺るぎませんでした。映画を見た後、原作「荊の城」も読んだのですが、ヴィクトリア期のロンドンを舞台とした原作を日本統治下の朝鮮に置き換えるという大きな改変を行っているにもかかわらず、映画には原作への愛がこれでもかと詰め込まれていることがよくわかって、より一層好きが増した。
他にも語る順番やラストシーンなど、かなり変わっているシーンもあるのですが、何よりこの物語の主人公である2人のことが好きだからこその脚本であることがよくわかる。上下巻ある小説の映画化にもかかわらず、端折っていると感じさせない語り口の手際も見事だと思いました。
原作から見れば2次創作的な映画化だとは思うのですが、個人的には、この2人にはこのような未来を掴み取って欲しいと願い、それを具現化して見せてくれた監督に感謝の気持ちです。
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以上が今年のベストです。が本当は「帝一の國」「スウィート17モンスター」「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」「ムーンライト」「IT」あたりも入れたかった!です!
ただ、見たらきっとベスト10に入れたかっただろうな〜という映画もたくさんあるので、それらも追ってみたいと思っています。

昨年のベストはこちら
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一応今年見た映画はこれで全部だと思う。

髑髏城の七人「上弦の月」と「下弦の月」は両方見るとさらに楽しい

下弦の月にはまってしまった、という話を先日書いたのですが、その勢いでTwiitterで感想を探して読んでいると、どうやら上弦の月下弦の月とでは、同じ脚本なのに見え方が全然違うらしい、ということが伝わってきて気になってしまい、ついに見に行ってきました上弦の月…!

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私はこれまで、同じ舞台を繰り返し見るということをほとんどしたことがありませんでした。するとしてもその理由は「推しが出ているから」で、今回お目当てのキャストは下弦にいたため、上弦も見るなんて最初は思っていなかったんです。
でもいざ見に行ってみると、こんな風に自分が好きだと思った物語を、同一脚本Wキャストで同時期に見れるというこの環境がものすごく贅沢なことなんだということを痛感しました。とにかく見ていて目が潤うんですよ。喉が渇いている時に飲む水がおいしいみたいに目と耳がおいしくて楽しい…。
そのくらい、上弦と下弦は全く違う舞台でそれぞれ魅力的だった。
同じ脚本なのに、体格や年齢の差、それぞれの解釈による表情や間でこんなにも変わって見えるというのが面白くて仕方ないです(ボーナスシーズンで本当によかったなあ…)。
観に行く前に、ちょうど上弦にはまっている方にあれこれ見所ポイントを聞いたりして予習できたのもよかった。
というわけで、下弦と比較しながらの感想をまとめてみたいと思います。
上弦は12/19の夜公演、下弦については12/27夜公演に見たものでまたイメージが変わっていたのでそこと比較しています。

以下かなりのネタバレです。

捨之介

下弦、宮野真守さんの捨之介は太陽で正義の味方だなと思う。天魔王を救えると思っているし、その力はあったはず。なので最後の対決後、力が及ばなかったことにショックを受け「自分がここに残るから皆は先に行け」と言い出すのだと思います。27日で明らかにここを転換点にしていたことですごく気持ちの流れが整った捨之介になっていた。宮野さんの声がいいことなんて重々承知しているのですが、本当表情が見えなくても声の色で表情が見えてくる演技に進化していて、本当のプロフェッショナルだなと思いました。
しかし上弦、福士蒼汰さんの捨之介は若い。若くて幼くて、天魔王との間に信頼関係があると信じていたのかな、と思いました。その純真さが壊れる様が痛々しい。守ってあげたい捨之介だったなと思います。

蘭兵衛

蘭兵衛は完全に別人でした。
その別人さをざっくり説明すると、下弦、廣瀬さんの蘭兵衛が「沖田総司」だとしたら上弦、三浦さんの蘭兵衛は「土方歳三」にイメージが近いと思った。
下弦の蘭兵衛は殿への思いにとらわれ亡霊になってしまう、儚さから狂気へ落ちていく様子が美しくも切なかったのですが、上弦の蘭兵衛はとにかく強い。その強さゆえに心に隙が生まれてしまったという感じだった。
殺陣も全然違って、下弦が牛若丸なら上弦は「剣豪」って感じだった。天魔王と2人で戦う襲撃シーンの迫力がすごいです。目が足りない。

天魔王

何と言っても天魔王がまっったく違う。
下弦、鈴木拡樹さんの天魔王は「殿」に認められたかったのに、認めてもらえなかった(と本人は思っている)ことで、天に成り代わることを目的として動くようになってしまったように見える(これは初見ではあまり思わなかったのですが、捨の進化に合わせて鈴木さんが軸を定めたのかなと思っています)。
けれど上弦、早乙女太一さんの天魔王は「殿」のことが好きなんですよね。天にとらわれているという意味ではむしろ下弦の蘭兵衛と対になる存在感だと思う(なので上弦天と下弦蘭は再会の瞬間に決別しそう…)。
蘭兵衛、捨之介、生駒などとの関わり方も下弦とは全くアプローチが違うので、上弦を初めて見たときは、同じ話なのに全然違うものを見ている!という興奮がすごかったです。
上弦下弦それぞれに、どうしようもなく目が追ってしまうキャラクターがいるのですが、下弦では圧倒的に蘭兵衛だったのが上弦はもう天魔王から目が離せなかった。早乙女さんの殺陣の圧倒的な強さと美しさ。
最初のシーンではもうあの世から蘇ってしまった怨霊、のように見えて怖くて仕方なかった。でもその印象が徐々に、かわいそう、に変わっていくんですよ…。
ラストシーン、下弦の天魔王は虚勢を剥がされる、哀れな「王になれなかった男」なんですけど、上弦の天魔王は「殿」に再び会いたいと願っただけの小さな子ども、のように見えた。

でもそれもすべて、他のキャラクターとの相互作用でそのように進化してきたのだなと思います。
メインの3人だけでなく、すべてのキャラが上弦、下弦、それぞれの中で生きている。
あの極楽太夫にはこの蘭兵衛と兵庫だし、この霧丸にはこの捨之介、みたいな相互作用がある。
両方見た上で、どちらがうまいとかそういうことではなくて、どちらにも魅力があるし、互いに刺激しあってその魅力がどんどん磨かれていく様を観れる、というのは、長い舞台でWチームならではの楽しみなんだなと思います。
前期が終わったところですが、2月まで舞台は続くので、まだまだ下弦も見に行くし(年始公演にも行きます!)、あともう1回は上弦も見たい。そしてこれまでの髑髏城も見てみたい、と思っています。

以下、上弦の各キャラの印象まとめ。

  • 捨之介(福士蒼汰)…天、蘭、捨の中では最年少に見える(下弦は最年長に見える)。純真無垢な魅力がある捨之介なので、幕が閉じたその後が心配。霧丸が支えてあげて…!
  • 天魔王(早乙女太一)…ほっとけない天魔王。才能も魅力もあるのにそれだけでは満たされないお腹を空かせた子ども。殺陣も綺麗だし、マントや扇子の使い方も美しかった。随所でつまらなそうな顔を見せつつ、生駒に甘えたりするギャップがたまらない。
  • 無界屋蘭兵衛(三浦翔平)…強い。天魔王が蘭兵衛を呼んだのは戦力として欲しかったからかなってくらいしっかり強い。三浦さんはこれが2作目の舞台ということで時代劇も初めて(?)と聞いたのですが、信じられないくらいにうまくてかっこいい。
  • 兵庫(須賀健太)…下弦の兵庫がお兄ちゃんだったら、上弦の兵庫はガキ大将って感じだった。明るくてまっすぐで、だから最後の太夫へのセリフが沁みる.
  • 霧丸(平間壮一)…捨之介と同年代に見える霧丸だった(下弦の霧丸は子どもに見える)。だからこそ、一族のことを思う言葉に責任感を感じる。背負っているものがあるからこその強さがある霧丸。
  • じん平(村木仁)…下弦のおっとうはちょっと宇宙人のようでしたが、上弦のおっとうは可愛いおっとう。最近はおっとうが鎌もって駆け出すシーンですでに泣いてる。
  • 珊底羅の生駒(山本カナコ)…天魔王を慈しむママでした。生駒のラストシーンはこの上弦の生駒が本当切なくて良かったな…。
  • 贋鉄斎(市川しんぺー)…贋鉄斎が頰を切るシーン毎回いてって思います。
  • 渡京(粟根まこと)…上下で一番印象が変わらないキャラかもしれない、けど、年代が全然違うので、皆との関係性が変わってくるのが面白かった。どちらの渡京も好きなキャラです。
  • 極楽太夫(高田聖子)…下弦とは全くの別人。強い姉御なんだけど、実は誰かが守ってあげないとっていう弱さもあるのがいい。FGOで例えるならドレイク船長です。
  • 狸穴二郎衛門(渡辺いっけい)…狸親父という感じで、下弦より裏がありそうだった。

今のところはこんな感じですが、次に見たらまた変わるかもしれない。
本当に楽しいです…。2017年も年末になってすごい勢いで新たなコンテンツにはまってしまいましたが本当に楽しい1年だったという気持ちです。

髑髏城の七人 月 (K.Nakashima Selection)

髑髏城の七人 月 (K.Nakashima Selection)

戯曲も買いました。帰宅してから脳内再演ができる優れもの…。早く円盤も欲しいです。